大阪教育大付属池田小で平成13年6月に起きた児童殺傷事件は学校の安全を根底から問い直し、文部科学省は翌年、登下校時以外の校門の施錠を全国の学校に求めた。だが、無施錠の門からの不審者侵入は後を絶たず、先月8日には東京都立川市の市立第三小に男2人が侵入、教職員にけがをさせた。池田小事件で長女の酒井麻希さん=当時(7)=を失った両親は「『不審者を入れない』という、事件の最大の教訓が生かされていない」と指摘する。 麻希さんの父、肇さん(63)は立川の事件を報じたある記事に、憤りすら覚えたという。「児童守ったマニュアルと『不審者侵入訓練』」と題された記事では「マニュアルに沿って、それぞれの役割を全うしてくれた」と学校の対応を評価する市教委担当者の声が紹介されていた。 「酒瓶を持った男2人を教室まで侵入させながら『よくやった』とは、どういう危機管理意識なのか」と肇さんは指弾する。麻希さんの母、智恵さん(64)は「不審者対応訓練といえばさすまたを使う様子が紹介されるが、一番重要なのは侵入させないこと。殺意を持った大人が侵入すれば子供を守ることは極めて難しいというのが、事件の最大の教訓のはずです」と力を込めた。 池田小の事件で問われたのは、昭和62年の教育改革で推奨された「開かれた学校」の在り方だ。地域住民にも子供の教育に関わってもらう学校づくりを意味するが、関係者以外が物理的に入りやすい環境づくりが進み、不審者侵入を想定した危機管理意識は、立川の事件も含め極めて薄い。 防犯に詳しい立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「『開かれた学校』はソフト面の話なのに、現場ではなぜか物理的に開くことだと勘違いされていた。池田小事件の教訓が風化して、そういう考え方が復活してしまったのか」と嘆息する。 小宮教授は「犯罪を100%防ぐことはできない」としつつ、「校門から入れない対策をすれば、学校内での事件事故の発生率を数%は減らすことができる。施錠は基本だ」とする。池田小事件を起こした宅間守元死刑囚=平成16年9月執行、執行時(40)=は開いていた自動車専用門から侵入したが、裁判では「施錠されていたら門を乗り越えてまで侵入しなかった」と述べた。 立川の事件も、無施錠の通用口から酒瓶を手にした男らが侵入。特定の児童の名前を挙げて捜し始め、教諭を殴った。各教室では机でバリケードを築き、教職員らはさすまたなどで男らを1階へ誘導。駆けつけた警察官に男らが逮捕されたのは侵入の約25分後だった。