ひとりの女性の声がブラジルの歴史を動かす 『アイム・スティル・ヒア』本予告公開

8月8日に公開されるウォルター・サレス監督最新作『アイム・スティル・ヒア』の本予告が公開された。 『セントラルステーション』や『モーターサイクル・ダイアリーズ』などで知られるサレスが、長編監督作としては16年ぶりに祖国ブラジルにカメラを向けた本作は、軍事独裁政権下で消息を絶った政治家ルーベンス・パイヴァと、夫の行方を追い続けた妻エウニセの実話に基づいた物語。サレス自身、幼少期にパイヴァ家と親交を持っており、自由を奪われ、言葉を封じられても、理不尽な時代に抗い続け声をあげることをやめなかったエウニセの姿を描いた。第97回アカデミー賞では、ブラジル映画史上初となる作品賞ノミネートを含む3部門に名を連ね、国際長編映画賞を受賞した。 1970年代、軍事政権下のブラジル。元国会議員のルーベンス・パイヴァとその妻エウニセは、5人の子どもたちと共にリオデジャネイロで穏やかな日々を過ごしていた。だが、スイス大使誘拐事件を契機に、国の空気は一変。抑圧の波が広がる中、ある日、ルーベンスは軍に逮捕され、そのまま連行された。愛する夫を突然奪われたエウニセは、必死にその行方を追うが、彼女自身もまた軍に拘束され、数日間にわたる過酷な尋問を受けることとなる。極限の状況の中でなお、彼女は沈黙を貫き、夫の行方を捜し続けた。自由を奪われ、愛する人の消息も知らされぬまま、それでもエウニセは諦めなかった。夫の名を呼び続けたその声は、やがて静かに、しかし確かに、歴史を動かす力へと変わっていく。 エウニセを演じたフェルナンダ・トーレスは、第97回アカデミー賞主演女優賞にノミネート。また、フェルナンダ・トーレスの実母であり、サレス監督作品『セントラル・ステーション』でブラジル人として初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたフェルナンダ・モンテネグロが、エウニセの老年期を演じた。 公開された本予告は、エウニセが家族との幸せな思い出を記録した8ミリフィルムを、感情を抑えた表情でみつめるシーンから始まる。夫から深い愛を注がれ、子どもたちはビーチで無邪気に笑い、ホームパーティでは音楽とダンスに包まれながら、笑顔に満ちた日々。だが、そこから一転、映し出されるのはその穏やかだった時間が次第に歪んでいくシーンだ。軍事政権下という時代の影が社会を覆い始め、ある日、エウニセの夫が突然軍部に連行され、消息を絶ってしまう。真実を知ろうともがくエウニセが周囲に助けを求めても「みんなも同じよ」と突き放され、家族への監視も日を追うごとに強まっていく。それでも、決して立ち止まらなかったエウニセ。やがて、彼女が長い年月をかけて訴え続けた声が、ついにひとりの報道記者を動かす。事件を世界へ伝えようとするその記者は、世間の関心を引くため、悲しげな家族写真を求めた。しかし、エウニセは微笑みながら「いえ、笑って」「何よりも重要なのは、軍事政権の犯罪を明らかにして、裁くこと」と語る。そのエウニセの信念と行動は、やがてひとつの声から大きなうねりとなり、歴史を動かしていく。

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