ミステリ賞の世界最高峰「英ダガー賞」で初の日本作家の受賞なるか!?

米メジャーリーグの野球選手や、欧州の名門クラブチームのサッカー選手など、日本人プレイヤーの活躍がネットやメディアを通じて続々と届けられる昨今だが、海を渡って成功をおさめる同胞たちは、何もスポーツ選手ばかりではない。 近年、海外への翻訳紹介で、その実力に注目が集まっている日本の作家たちの躍進にも、めざましいものがある。 名探偵シャーロック・ホームズを生んだイギリスには、名だたるミステリ作家たちが集う英国推理作家協会(CWA)があって、年に1度、アメリカの「エドガー賞」と並ぶミステリ賞の世界最高峰「ダガー(Dagger)賞」(Daggerは短剣の意味)を授けている。 今年もまもなくロンドンで授賞式が開催されるが、その翻訳部門の最終候補に、日本作家2人の名が挙がっている。 ◾️これまでの日本作家とは異なる期待感 今世紀に入り、北欧をはじめ英米以外の作品が脚光を浴びるなど、ミステリ文化のグローバル化が進むなか、CWAが非英語圏の作品に大きく門戸を開き、翻訳部門賞を創設して早や20年近くになる。 4年前には韓国のユン・ゴウンが「夜間旅行者」でアジア初の受賞者となったのは記憶に新しいところだが、日本勢は過去に横山秀夫の「64(ロクヨン)」、東野圭吾の「新参者」、伊坂幸太郎の「マリアビートル」が候補に挙がりながら、まだ受賞者は出ていない。 しかし、今回のファイナリストである「ババヤガの夜」の王谷晶(おうたに・あきら)と「BUTTER」の柚木麻子(ゆずき・あさこ)は、これまでの日本作家たちとは異なった期待感を抱かせる。 2人は偶然にも同年(1981年)生まれの女性作家だが、いわゆるミステリのプロパー作家ではない。 「ババヤガの夜」は、甲州街道を走るセダンの車中から始まる。後部座席で血を流す新道依子は幼い頃から祖父に喧嘩の術(すべ)を叩き込まれ、暴力を生き甲斐として22歳の現在まで生きていた。その日、歌舞伎町でちょっかいを出してきたチンピラを叩きのめしたことから、ヤクザに拉致されてしまったのだ。しかし、玄人たち相手に臆さない闘いぶりを暴力団の会長に見込まれた依子は、その1人娘で短大に通うお嬢様、尚子の運転手兼ボディガードにされてしまう。 「ババヤガ」とは東欧の民話に登場する魔女の呼称で、作中では「暴力の申し子みたいな、いかつい女」と描写される主人公の新道依子のことだ。また、映画「ジョン・ウィック」の主人公の異名でもあり、依子の秘めたる破壊力が伝説の殺し屋に匹敵することをも暗示している。かくして、暴力だけを身にまとい、依子はヤクザの世界にいきなり放り込まれるが、そんな彼女を運命的な邂逅が待ち受ける。

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