【深層ルポ】明らかになる最新の組織像…「香港マフィア、住吉会、チャイニーズ・ドラゴン同盟」の裏側

〈日本各地でさまざまな事件を引き起こす『匿名・流動型犯罪グループ(通称:トクリュウ)』。SNSなどを中心に、時には顔も知らない者同士が結びつき、犯罪を繰り返すーー。そんな現状を「液状化犯罪時代」と称するのは暴力団を中心に取材するフリーライターの鈴木智彦氏だ。第2回では、’22年にチャイニーズ・ドラゴンが起こした「サンシャイン乱闘事件」の真相に迫った。 最終回では、謎に包まれた組織のルーツと、その最新像に迫る〉 ◆ドラゴンの2つの源流 日本における反社会的勢力としてのドラゴンは2系統あり、一方は東京・葛西の暴走族『怒羅権』をルーツにする一派、もうひとつが同時期に発生した東京・王子の『華魂』を源流にする愚連隊だ。どちらも読み方は“ドラゴン”だが、『怒羅権』表記の字面が厳めしく、また、暴走族初期に千葉県浦安市で発生した乱闘で、対立する暴走族メンバーだった県立高校生を刺殺した事件(実行犯は正当防衛で無罪となった)が大きく報道されたため、長年、マスコミは葛西の一派を主流のように扱ってきた。 同じ時代の東京に発生し、同じバックボーンを持つ2つのドラゴン……原則、ドラゴンのメンバーといっていいのは葛西の怒羅権か、王子の華魂の系統と考えて差し支えない。他は残留孤児を中心にしたグループでもドラゴンの親交者だ。ましてやフィリピンで特殊詐欺を繰り返す『JPドラゴン』などは、モチーフとして龍を使ったに過ぎず、日本のドラゴンとはまったくの無関係である。 サンシャイン乱闘事件を引き起こしたドラゴン上野グループも、厳密にいえばドラゴンではない。上野グループは、残留孤児2世の有名な不良である大偉(ターウェイ)・小偉(シアオウェイ)の佐藤兄弟が作った一派を源流としている。マスコミは彼らを“ドラゴン”と書き続けてきたが、佐藤兄弟はドラゴンには入らず、錦糸町で“ブラックドラゴン”というチームを作った別派なのだ。が、ブラックドラゴンは組織を新陳代謝できず、その系統が上野グループとなって今に至る。 怒羅権がマスコミの取材に応じないのも、誤解や不明瞭さが蔓延する理由のひとつだった。 「暴走族時代からドラゴンは別格だった。暴走族の世界に戒厳令が敷かれているような空気だった。葛西の怒羅権も、王子の華魂も、取材には応じないチームとして有名だった。それにとにかく怖がられていた。王子には華魂以外の暴走族もあって、レディースたちも一緒に取材したことがあるんだけど、みんなピリピリしてんだよ。『警察が来るの?』って訊いたら、華魂が襲撃してこないか、もし来たら大変なことになるとビビってた」(暴走族雑誌『ティーンズロード』の編集長だった比嘉健二氏) もうひとつのドラゴンである『華魂』は、『怒羅権』以上に徹底して情報を表に出さず、限られた雑誌記事でだけ発信、誤報があっても完全無視していた。情報がない上、関係者を見つけて取材を試みて頑なに喋らない。そのためマスコミはドラゴンの事件が話題になるたび、華魂を亜流、もしくは傍流のように報じ続けてきたのだ。 長い間ドラゴンは正体不明の謎めいた集団だった。令和の今でさえ、事実誤認がマスコミに蔓延っており、事件のたびにピント外れの記事が出回ってしまう。 当事者にとっては、してやったりだったろう。実態の見えない怖さが一石二鳥に作用するからだ。事件のたびに名前の挙がるドラゴンという準暴力団……社会の不安が彼らの暴力イメージを増大させ、恐怖心を掻き立てた。沈黙と恐怖は、同時に仲間たちを守る迷彩となり、社会からの制裁を躱す楯にもなった。 長々書いたのは、なにもドラゴンソムリエを気取りたいのではない。が、外部の人間から見れば区別ができなくても、当事者にとっては誰がドラゴンで誰が親交者なのか、明確な基準があると言いたいだけだ。マスコミはドラゴンに関し、安易に「真相は闇の中」と片付けすぎた。ドラゴンは取材しにくい対象だが、彼らは間違いなく日本に、それも東京のど真ん中に生息しているのだ。 過去回でチャイニーズ・ドラゴンは警察の使う俗称と書いたが、華魂は立ち上げ当時、「チャイニーズ・ドラゴン」と名乗っていたことがある。メンバーのほとんどが残留孤児2世であり、日本で受けたいじめに対する抵抗が、チーム結成の理由だったからだ。 当時の不良社会は暴走族全盛期だったので、華魂もまた最初はバイクや車を使った集会をしていた。好戦的な暴力性や残忍さが関東一円の暴走族に知れ渡ると、悪の華に憧れた日本人不良たちが華魂に加入していった。在日韓国・朝鮮人が寄り集まった大阪の柳川組も、凄惨な抗争を繰り返して「殺しの軍団」と呼ばれるようになると、多くの日本人を取り込んで膨張を続けた。マイノリティーのアウトロー集団は、突出した暴力性によって多数派となり、武闘派としてメジャーに転生する。その後、敵だったはずの日本人を取り込んで増大した華魂は、組織名から“チャイニーズ”を削除している。 にもかかわらず、警察が今になってチャイニーズ・ドラゴンと連呼し始めたのは、残留孤児2世・3世をはじめ、残留孤児の不良グループ、および不良中国人の犯罪をひとまとめにすることで、“ドラゴン”をより大きな脅威と認知させたいのだろう。中国人観光客のオーバーツーリズムが慢性化し、排外主義が蔓延しつつある日本で、中国脅威論はかっこうのガソリンになる。不安が増大すれば、潤沢な予算が付くのかもしれない。 社会の敵を作りたい警察にとっては好都合でも、不安と恐怖を煽られる我々一般人はたまったものではない。わけもわからず恐怖心だけが増大すれば、場合によっては中国ヘイトを生み出すはずだ。 ◆『香港14K』という闇勢力の実像 先ほど指摘したように、今年6月に逮捕者を出した「盃事」事件で、警察はチャイニーズ・ドラゴンが国境を越えて社会に蔓延し、暴力団以上に治安を脅かす反社会分子に成長したとアナウンスしたかったのだと推測できる。が、それだけでは今回の奇妙なニュースは読み解けない。 なにしろ、『香港14K』という、ドラゴン以上によくわからないマフィア組織との盃事である。実態がわからないので、麻薬取引やトクリュウなど、今の犯罪トレンドに結びつけて報道しても、さほど違和感を持たずに納得してしまう曖昧さがある。これもまたドラゴンの脅威を格上げする材料にはなるだろう。 だが香港14Kは、もはやかつてのマフィア組織ではない。いまだその形は残っていても、独裁的な共産主義国である中国に返還された香港で、好き勝手にアウトロー活動などできっこないのだ。特定危険指定暴力団となった北九州の工藤會は、自由で、法の支配が徹底している日本だから、警察を敵に回してテロ活動ができ、トップの裁判では殺人が無罪となった。同じことを中国でやれば即座に逮捕され、トップをはじめ幹部全員が死刑になって終わりだ。 14Kと日本の暴力団の関係は今に始まったものではない。地理的に近い沖縄の暴力団は昭和の頃から船舶を使った密貿易で関係を築いているし、現地に支部も作っている。’14年、私はとある指定暴力団トップの紹介でマカオに渡ったが、そのトップが「兄弟分を紹介する」と会わせてくれた人物は、香港14Kのボスだった。14Kの幹部と日本の暴力団が盃を結んだところでいまさらなのだ。 ◆報道の裏にある「捜査当局の狙い」 ではなぜ警察はこの事件を大々的に発表し、マスコミに報じさせたのか。 あくまで推測に過ぎないのだが、今回の事件は、中国当局への牽制だった可能性がある。というのも中国の秘密警察は、日常的にドラゴンメンバーをはじめ、残留孤児2世・3世の不良たちに接触しているからだ。 秘密警察の目的は日本をスパイすることではない。彼らの情報収集対象はあくまで、中国共産党の一党支配を揺るがす存在……民主化運動の活動家や、弾圧を受けているウイグル族などの民族独立運動関係者、中国において邪教とされる法輪功信者などだ。 「ドラゴンが10人いれば、たぶん8人くらいは秘密警察が接触して、協力者にならないかと勧誘している。表向き、日本の法律を破る行為ではないし、日本を売り渡すわけでもない。かなり高額な経費・謝礼がもらえるのもあって、協力している人間もいるはず」(ドラゴンの古参メンバー) 秘密警察は中国人のあらゆる階層に協力者を作り、中国共産党にとっての反乱分子が日本のどこに住んでいるか突き止め、当事者に接触を図ってくるのだという。 「最初、これまでの経緯は不問にするから中国に帰れと説得する。それでも拒否されると中国の家族に圧力をかけると脅す。多くの活動家は、飴と鞭で揺さぶられるのを覚悟の上だ。なので場合によっては手荒い手段に出る。それに手を貸す不良がいてもおかしくない」(同前) 周辺取材を進めると、今回“チャイニーズ・ドラゴン”関係者と報道された3名の中に、秘密警察の協力者と疑われる人物がひとりいた。それに、香港14Kそのものが、今は中国共産党の手先だ。事実、香港のマフィア構成員は権力の手先となり、香港の民主化運動を暴力で潰した。警察は日本の暴力団が中国の走狗になるのは許さないと釘を刺し、メッセージを送ったのかもしれない。 ’23年4月、当時の松野博一官房長官は、アメリカ国内で秘密警察を運営した容疑で米当局が2人を逮捕したニュースに触れ、もし日本で主権侵害の活動が行われている場合は、断じて認められないと明言した。 「いずれにせよわが国での(中国による)活動の実態解明を進めているところであり、その結果に応じて適切な措置を講じる考えである」(ロイター通信。’23年4月18日) 今回の事件の裏に、日本政府のジャブがあった可能性は十分にある。 取材・文:鈴木智彦

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