「供述弱者」踏み込まず「ひきょう」 再審無罪の原告側に不満残る

「不当な取り調べが違法だったとされたのはすごくうれしかったが、『供述弱者』の点はなんで言わないんだろうなって」。17日、大津市内で開かれた記者会見。原告の西山美香さんは滋賀県に賠償を命じた大津地裁判決について、評価と不満が相半ばする気持ちをにじませた。 西山さん側は、取り調べに当たった警察官に西山さんが好意を抱き、捜査機関が恋愛感情を利用して自白を誘導したとの主張を訴えの中核に据えていた。 刑事の手続きでは、2020年3月の再審無罪判決が「警察官は、西山さんから恋愛感情を寄せられていたのを知りながら、捜査機関のストーリーに整合する自白を引き出そうとした」と踏み込んでおり、民事の責任を追及した国家賠償請求訴訟で裁判所がどのような判断を示すかが注目されていた。 17日の大津地裁判決は、社会通念上相当と認められる範囲を超えた違法な自白の誘導・維持があったことまでは認めた。だが、供述弱者の特性に付け込んだとする西山さん側の主張に対する具体的な言及はなく、正面から答えなかった。 弁護団長の井戸謙一弁護士は会見で、供述弱者への取り調べのあり方が問われた捜査だったと指摘し「(判断を回避した裁判所は)ひきょうだ。あえてネグレクトしようとしているのは理解できないし、非常に不誠実」と批判。控訴する方針を明らかにした。 供述弱者は知的障害・発達障害者だけでなく、日本語が不自由な外国人らに対する取り調べでも問題となり得る。 供述弱者の問題に詳しい京都大大学院人間・環境学研究科の大倉得史教授(供述心理学)によると、供述弱者に対する取り調べでは黙秘権の分かりやすい説明や、答える範囲に制約を設けずに自由に答えてもらうような質問の仕方が求められるという。 大倉教授は判決について「取り調べの違法性は認めたが、(背景には)西山さん個人の性質があったと判断しているようにみえる。供述弱者全体への配慮を示すべきだった」と指摘する。【礒野健一、菊池真由、飯塚りりん】 ◇滋賀・湖東記念病院患者死亡 2003年5月、滋賀県東近江市の湖東記念病院で入院中の男性患者(当時72歳)が死亡し、県警は04年7月、「人工呼吸器のチューブを外した」と自白した看護助手の西山美香さんを殺人容疑で逮捕した。西山さんは懲役12年の実刑が確定したが、第2次再審請求の即時抗告審で大阪高裁が17年12月、自然死の可能性や自白の誘導を指摘し再審開始を決定。20年3月、大津地裁が再審無罪判決を言い渡した。西山さんは20年12月、県と国に賠償を求める訴訟を起こしていた。

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