「まるで拷問」黙秘で勾留1年超、宮崎・日南市の元副市長 官製談合否認で刑事から脅し

捜査機関が否認や黙秘している容疑者や被告を長期間勾留して自白を迫る「人質司法」。宮崎県日南市の官製談合事件でも、この問題が浮かび上がる。無罪主張を続ける元副市長の田中利郎被告は西日本新聞の取材に「黙秘したため1年以上も保釈されなかった。心が折れそうになり、認めた方が楽になると何度も考えた」と話した。被告の弁護人は「筋書きありきの作られた事件だ」と捜査機関を非難する。 被告に対する宮崎県警の任意聴取が始まったのは2020年10月。警察署に任意同行を求められ、「地元建設業協会の会長が談合を取り仕切っていると分かっていて、災害復旧工事の事業費などを伝えただろう」と自白を迫られた。 聴取は初日が12時間43分、翌日は14時間9分。その後も取り調べは続き、平日は仕事が終わってから深夜にまで及んだ。「情報を伝えたのは工事を円滑に進めるため。談合のことは知らなかった」と何度否定しても、聞く耳を持ってもらえなかった。 「日南に住まれなくしてやる」と脅されたこともあった。長時間の取り調べで意識がもうろうとする中、「後からいくらでも修正できる」との刑事の言葉を信じ、警察が見立てた調書にサインした。11月下旬まで続いた任意聴取で何度も調書の修正を求めたが、一切応じてもらえなかった。 翌年1月19日、官製談合防止法違反容疑などで協会会長の男性と共に逮捕された。警察への不信感から黙秘すると、追及はさらに厳しくなった。 「いつまでも黙っているんじゃない。話せ」「弁護士は留置されたことがないからつらさが分からない。金もうけのために黙秘させている」「田中さんはズタズタになる」 弁護人が差し入れた被疑者ノートには、取り調べの過程で刑事や検事から受けた言葉が書き残されており「まるでごうもんだ」との記述も。保釈が認められたのは22年2月。逮捕から1年以上が経過していた。 ■ ■ 21年5月から始まった宮崎地裁の公判で、共犯の男性は「間違いない」と起訴内容を認め、有罪判決にも控訴しなかった。 しかし地元を取材すると、異なる事実が浮き彫りとなった。 複数の関係者によると、男性が罪を認めたのは持病のため約4カ月に及んだ勾留に耐えられなくなり、経営する建設会社のことも考えたからだという。捜査段階で意に沿わない調書にサインさせられたとも周囲に漏らしていた。男性は取材に「いまさら何も言うことはない」と話した。 「入札不調になれば地元が困るから業者間で調整(談合)していた。副市長は関係なく、官製談合ではない」「調整は予定価格公表後に行っていた。副市長が会長に伝えた情報は調整に全く役に立たない」。事件で取り調べを受けた複数の業者も口をそろえた。 警察や検察のストーリーに沿う供述調書に署名するまで20回以上も取り調べられた業者もいた。「事実と違うと何度言っても聞いてくれなかった。最後は根負けして調書にサインしてしまった」と明かした。 取り調べは適正だったのか。宮崎県警は「公判中であり、回答は差し控える」。宮崎地検は「把握していないこともあり、コメントできない」としている。(久知邦)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加