「性善説」につけ込んで…暴力団員の男が〝新型コロナ給付金〟をだまし取る事件が続発した〝からくり〟

警視庁・滝野川署で7月31日の朝、送検されるために建物から姿を現した初老の容疑者。一見、穏やかそうな風体だったが、本誌カメラマンが写真を撮っているのに気がつくと、一瞬、眉間にシワを寄せて険しい眼でこちらを見たのだった──。 新型コロナ給付金の特例貸付制度に申し込み、現金65万円をだまし取ろうとした詐欺未遂の疑いで逮捕されたのは、指定暴力団・極東会傘下幹部・善林敏治容疑者(63)だ。 「善林容疑者は’20年にコロナ禍で祭りやイベントでの屋台の仕事が減ったとして、暴力団員は利用できない新型コロナ対策に関連する給付金貸付制度などに申し込みました。その際、『暴力団員ではない』と宣誓書にサインをして、現金をだまし取ろうとした疑いです。 調べに対して善林容疑者は、『暴力団員が利用できないことを知りませんでした』などと、容疑を一部否認しているそうです」(全国紙社会部記者) 新型コロナ対策の給付金詐欺といえば、持続化給付金詐欺が一時期世間を騒がせた。コロナによって仕事に大きな影響を受けた法人や、自営業者、フリーランスなどの個人を対象として、法人に最大200万円、個人に同100万円を給付する制度だ。しかし、実際には事業をしていない学生やサラリーマンが虚偽の申請をして不正受給をするケースが続出した。中にはSNSで希望者を募り、仲介料を取って虚偽の申請をさせる悪質な例もあった。 ’24年3月に懲役7年の実刑判決を受けた三重県の会社役員(判決当時49)は妻と息子2人を中心としたグループで、少なくとも960件以上の虚偽の申請を繰り返して10億円以上の不正受給をしたとみられている。持続化給付金詐欺では’22年8月の時点で2578件、2866人が摘発されており、立件された被害額は約25億6000万円となっていた。 ◆「性善説」につけ込む容赦のなさ 善林容疑者がだまし取ろうとしたとみられるのはこの持続化給付金ではなく、「緊急小口資金」「総合支援資金」。これは新型コロナの影響によって仕事が減ったり、失業した世帯に無利子で貸し付けられるものだ。「緊急小口資金」は最大20万円、「総合支援資金」は最大20万円×3ヵ月となる。元々は低所得者や障害者がいる世帯を対象にしていた制度だが、’20年4月から特例としてコロナで仕事がなくなるなどして収入が減った世帯も対象になった。実はこの制度でも不正受給が問題となっていた。 「『緊急小口資金』『総合支援資金』の申込書には『私及び私の世帯の者は、暴力団員ではありません。また、借入期間中においても暴力団員にはなりません』『私又は私の世帯員に係る暴力団員該当性情報の提供を求めることに同意します』という項目があり、同意した旨をサインしなければなりません。 審査をするのは各市町村の社会福祉協議会でした。’20年の3月~9月に全国の社協が貸し付けた緊急小口資金と総合支援資金は約107万件。申し込みが殺到したために数が膨大すぎて、とても1件ずつ照合している余裕はなかったと思います。 緊急に対応しなければならないという事情もあって、書類上の不備がなければ申請を通していたところも多かったようです。その結果、暴力団関係者が相次いで給付金をだまし取る事例が頻発したのです」(福祉関係者) 持続化給付金もそうだが、コロナ対策の支援金は困っている人たちを少しでも早く救うために、手続きの簡素化、スピード化を重要視していた。それはあくまで申請する人はコロナで困窮している人なのだという「性善説」に立ったものだ。公のお金を扱う窓口が不正を厳しくチェックしなければいけないのはもちろんだが、大変な状況につけ込んでカネをせしめようとする連中が見逃されることがあってはならない。

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