再審制度改正はなぜ実現しなかったか 記者がいぶかる、与党が配慮した「ある事情」

刑事裁判をやり直す再審制度を改正する機運が高まっている。超党派の国会議員連盟は衆参両院の半数を超え、議員立法での改正が今国会にも実現するかに思えた。しかし自民党内の慎重論は根強く、審議は次回以降の国会へ持ち越された。無辜(むこ)の市民が罪に問われる事案は後を絶たない。救済を待つ冤罪被害者のために、法改正が急がれる。 再審制度に関わる刑事訴訟法は、1949年の制定以来ほぼ変わっていない。現行法では審理の進め方や証拠開示に明確な規定はなく、検察側の不服申し立てが再審や再審請求審を長引かせる原因と指摘されていた。 議連案には、証拠開示の制度化▽検察官抗告の禁止▽再審請求審における裁判官の除斥および忌避▽期日の明確化など手続きの整備―などを盛り込んだ。会期最終盤の6月18日、立憲民主や国民民主、共産などの野党6党が提出し、成立へ大きく前進した。 ただ、議連で最多の議員数を占める自民党は提出を見送った。逢坂誠二衆院議員(議連幹事長)は「与党は法務省にある種の配慮をしながらこの問題を議論せざるをえない事情があるのだろう」と言及した。 「事情」とは何か。それは、法務省に近い政務三役経験者が議員立法での刑訴法改正に難色を示していることを指す。刑訴法は法律の基礎となる六法の一つのため、自民党内では法制審議会(法相の諮問機関)への諮問を経て法務省が法案を作り、内閣立法ですべきとの意見が根強いようだ。 法務省は長年、再審制度の議論を先送りしてきた。それが、議連の動きが活発化した途端、自らが事務局を務める法制審に諮問した。世論の高まりから法改正が不可避ならば、せめて主導権を握れる改正にしようと根回ししているのでは、といぶかしくなる。 当事者である検察を抱える法務省は立場上、客観的とは言いがたい。利害相反になりかねず、結論までには年単位を要する懸念がある。議員立法を先行させ、早期に改正を実現することが望ましい。 議連案の付則では、継続中の再審や再審請求審にも適用するとした。その一つが、滋賀県日野町で1984年に起きた「日野町事件」だ。 強盗殺人罪で服役した故阪原弘さんは、無実を訴えながら亡くなった。遺族は再審請求を申し立て、2023年に大阪高裁が再審開始を決定。検察が特別抗告し、審理は最高裁で続く。阪原さんの逮捕からすでに37年がたち、遺族は齡(よわい)を重ねる。 法律を作るのも、裁判を行うのも人間ならば、どんなに慎重を期しても誤る可能性はなくならない。再審制度は「最後の砦(とりで)」とも呼ばれる。冤罪事件の悲劇を忘れず、早期救済に向けて改善が必要だ。遺族は再審無罪が言い渡される日を待ち続けている。

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