【社説】大川原捜査検証 冤罪の核心になぜ迫らぬ

なりふり構わず事件をでっち上げた。その真相に迫ったとは言い難い。身内による検証の限界が露呈した形だ。 横浜市の機械製造会社「大川原化工機」を巡る冤罪(えんざい)事件で、警視庁と最高検が捜査の検証報告書を公表した。 国家賠償請求訴訟の確定判決で違法捜査が認定され、事件は事実上の捏造(ねつぞう)だったと断罪された。原因について警視庁の報告書は、公安部の捜査指揮系統に機能不全があったと結論づけた。 これを受けて警視庁は、当時の公安部長ら19人を処分した。ただ、懲戒に当たる厳しい処分は現場責任者である当時の係長ら2人だけだ。妥当性に疑問を禁じ得ない。 そもそも報告書は、事実の解明から逃げ、冤罪を生んだ核心に踏み込めていない。 公安部は2020年、軍事転用できる機械を中国などに不正輸出した疑いで社長ら3人を逮捕した。輸出規制を担当する経済産業省からは法令の解釈に疑義を呈されたが、必要な捜査を怠った。 報告書によると、立件に不利になる情報は、係長らから歴代課長に十分報告されず、公安部長らも重要な論点と認識していなかった。 上層部の監督責任は当然である。だが、なぜ大川原化工機が捜査対象とされたのか、なぜ現場は立件にこだわり暴走したのか、動機や背景に関する記載はないに等しい。 係長は自身の表彰や昇任のためでなく「事件で成果を上げることで社会に貢献するという思いから捜査に臨んでいた」と主張したという。とても納得できるものではない。 経産省が疑義から容認に転じた点も不自然さが指摘されていた。法廷では、複数の警官が公安部長による働きかけを証言した。だが、部長が否定したことを理由に経産省への聞き取りすらしていない。 虚偽の供述調書作成についても、故意ではないとした捜査員の言い分をうのみにしただけだ。 当時は安倍晋三政権で、経済安全保障の強化を進める中で起きた冤罪だ。公安部が組織的に実績作りを急いだのではとの疑念は拭えない。 再発防止策として、警視庁は部長による捜査会議制度の導入などを示した。第三者による真相究明なしに、実効性は発揮できないだろう。 検察の責任も重い。東京地検は初公判の直前に起訴を取り消したものの、3人の度重なる保釈請求に反対し、勾留は1年近くに及んだ。このうち1人は起訴が取り消される前に病気で亡くなった。 最高検は不利な証拠を十分に確認せず、保釈請求に柔軟に対応しなかったことなどを反省点に挙げた。しかし、一人も処分しなかった。重大な人権侵害であり、看過できない。 裁判所にも猛省を求める。保釈請求を却下し続けたにもかかわらず、謝罪も検証もしていない。保釈の運用を早急に改善しなければならない。

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