高橋洋一・政治経済ホントのところ【韓国・尹前大統領の妻を逮捕】強い権力、繰り返す悲劇

韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領の妻である金建希(キムゴンヒ)氏が12日、株価操作や収賄など複数の容疑で逮捕された。 韓国では大統領経験者が逮捕・起訴・収監される例はこれまでもあったが、その配偶者も同時に逮捕されるのは史上初めてだ。尹氏は大統領在任中、妻の金氏に対する特別検察官の捜査を立ち上げようとする野党主導の法案3件に拒否権を発動してきた。 なお、尹氏は昨年12月3日夜に「非常戒厳」を宣布したが、翌4日朝に解除した。今年1月に内乱罪で起訴され、4月に憲法裁判所が尹氏に対する国会の弾劾訴追を裁判官の全員一致で妥当と判断し、尹氏は罷免されて失職した。真偽は不明だが、尹氏の非常戒厳は妻への容疑をそらすためといううわさもある。 1987年の民主化以降、前大統領の尹氏の前に7人の大統領がいたが、悲劇的な末路をたどっている。 88〜93年の盧泰愚(ノテウ)氏と、2008〜13年の李明博(イミョンバク)氏、13〜17年の朴槿恵(パククネ)氏の3人は本人逮捕、93〜98年の金泳三(キムヨンサム)氏と98〜03年の金大中(キムデジュン)氏の2人は親族逮捕、03〜08年の盧武鉉(ノムヒョン)氏は親族への不正資金提供疑惑で自殺した。今回の尹氏も夫妻で、同様の道を進んだといえる。 なぜこうした歴史になるのか。韓国大統領には数多い特権と強大な権力があるため、周りに利権を求める人が群がるとされる。また、政治家自身も大統領の座を諦められないのも、不正とその後の悲劇の原因といえるだろう。実際、保守、リベラルのいずれの政権でも起こっている。 日本政府としては隣国とは言え、他国の司法の話なので、コメントする立場ではないだろう。尹政権が保守的で、その前のリベラルの文在寅(ムンジェイン)政権から日本への対応がだいぶ修正されたが、尹大統領の後、現政権の李在明(イジェミョン)大統領は再びリベラルで、反日基調にみえる。 李大統領が今月23、24日の日程で来日するが、今の石破茂政権とは意外に波長が合うかもしれない。歴代の韓国大統領で米国との首脳会談より前に首脳会談目的で日本を訪問したケースは初めてとなる。 今年は終戦80年と日韓国交回復60年という年で日本重視というが、李大統領は米トランプ大統領にあまり相手にされなかったのかもしれない。石破首相も同様の懸念があるが、その2人による首脳会談が、トランプ関税で逆鱗(げきりん)に触れなければよいのだが。 (たかはし・よういち=嘉悦大教授)

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