「うーん、マンダム」だけじゃない 昭和の男が憧れたチャールズ・ブロンソン、その無骨な魅力と『狼よさらば』伝説

昭和世代には懐かしい、「うーん、マンダム」の台詞でおなじみのアクションスター、チャールズ・ブロンソン。30代後半にようやく映画で主演の座を射止めた彼は、「荒野の七人」(1960)や「さらば友よ」(1968)などへの出演で頭角を現し、「狼よさらば」シリーズで世界的スターの地位を確立した。お世辞にも二枚目ではなく、表情の変化も控えめながら、一目見たら忘れられないインパクトを残していく。8月30日(土)には彼の代表作「狼よさらば」がBS12 トゥエルビ(BS222ch)の「土曜洋画劇場」(毎週土夜7:00~)にて放送される。本稿ではこの「狼よさらば」を軸に、時代を築いたブロンソンの唯一無二の魅力を紐解いていきたい。 ■人生の酸いも甘いも感じさせる無骨なマスク チャールズ・ブロンソンの名前は知らずとも、「うーん、マンダム」の台詞なら記憶しているという人は多いだろう。男性用化粧品のCMでブロンソンがつぶやく決め台詞だ。髭をたくわえたワイルドな風貌と西部劇を思わせる演出は、大人から子どもにまで強烈な印象を残した。このCMが始まったのは1970年。ブロンソンが孤独な殺し屋を演じる主演映画「狼の挽歌」が好評を博し、日本での人気を確立した時期でもある。 彼と同時期に活躍した名優に、「さらば友よ」や「レッド・サン」で共演したアラン・ドロン、「スティング」のポール・ニューマンらがいるが、ブロンソンには彼らにない武器を持っていた。それが、一度見たら忘れられない無骨な顔立ちだ。お世辞にも二枚目とは言えないが、渋いマスクには人生の酸いも甘いも噛み分けた重みが感じられ、演じる役柄に独特の存在感と説得力を与えている。 どこか虚しさをたたえているような目もいい。アクションスターには少なからず軽薄な印象がつきまといがちだが、ブロンソンにはその軽さがないのだ。タフガイのイメージと違い、実際の彼は絵を描くことが好きな控えめな人物であり、世間が持つ“ブロンソン像”とのギャップに苦しんでいたという。印象的な眼差しには、そうした苦悩がにじみ出ているのかもしれない。 ■脂が乗り切ったブロンソンの芝居が光る「狼よさらば」シリーズ ブロンソンは実に80作近くの映画に出演しているが、俳優として脂が乗り切った彼の魅力を味わうなら、全5作に渡る「狼よさらば」シリーズがイチ押しだ。ブロンソンが演じるのは、実直で会社での人望も厚い開発技師ポール・カージー。シリーズ第1作「狼よさらば」(1974)は、カージーがある悲劇をきっかけに、暴力に取りつかれ私刑執行人へと変貌していくさまが描かれる。 ニューヨークの一角で、妻のジョアンナ(ホープ・ラング)、娘のキャロル(キャスリーン・トーラン)と幸せな生活を送っていたカージー。ある日、スーパーへ買い物に出かけたジョアンナとキャロルは、配達票で住所を知ったチンピラたちに尾行され、アパートに押し入られる。大した金がないと知るや、チンピラたちはジョアンナを暴行し、キャロルを凌辱して逃走。ジョアンナは命を落とし、キャロルは心を病んでしまう。 カージーは犯人に関する手がかりを得ようと警察を訪れるが、大都市ゆえ逮捕の可能性は低いと聞かされる。失意の只中にいたカージーを変えたのは、顧客からプレゼントされた32口径のリボルバーだった。散歩中に金を求めてきた男を銃で殺害し、罪悪感から風呂場で嘔吐するカージー。この出来事をきっかけに暴力に魅入られた彼は、無法者を闇で葬る“私刑執行人”と化していく。 ■「男は背中で語る」高倉健にも通じる男らしさと美学 同シリーズをはじめ、多くの作品においてブロンソンは喜怒哀楽を大きく表情に出すことがない。そのぶん、妻との思い出の写真を見つめる悲しげな目や、チンピラに銃を向ける仕草をしながらの不敵な笑みといった、わずかな表情から心の機微が感じ取れる。オーバーな芝居なしでリアルな感情を伝える巧みさは、日本を代表する名優・高倉健にも通じるものがある。 「男は背中で語る」という言葉が死語となって久しいが、無骨な男が少なくなった今だからこそ、ブロンソンの生き様はいっそう格好良く見えてくる。二枚目ではない彼が、唯一無二の個性と演技力で銀幕のスターへと成り上がったサクセス・ストーリーも、世の男性たちの憧れを誘った一要素といえよう。 その人気は根強く、ブロンソンの逝去から15年となる2018年には、彼のそっくりさんを主演に据えたオマージュ映画「野獣処刑人 ザ・ブロンソン」が公開されたほど。日本では、漫画家・イラストレーターのみうらじゅんが熱狂的なファンとして知られ、浜岡賢次のギャグ漫画「浦安鉄筋家族」にはブロンソンに激似の“行徳のブロンソン”が登場する。それだけの吸引力がブロンソンにはあるのだ。 BS12 トゥエルビでは8月30日(土)より、「狼よさらば」シリーズに連なる「狼よさらば」「ロサンゼルス」(1982)「スーパー・マグナム」(1985)「バトルガン M-16」(1987)「DEATH WISH/キング・オブ・リベンジ」(1994)を「土曜洋画劇場」にて5週連続放送。主人公カージーの孤独な復讐劇を通して、“男の中の男”と称されるブロンソンの魅力を存分に味わってもらいたい。 ◆文=帆刈理恵(スタジオエクレア)

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