社説:選挙運動の規制 緊急対応と抜本改正を

新政権の誕生とともに国政は衆院選へ走り出したが、物議を醸している選挙運動の在り方について与野党の議論が不可欠だ。 春の衆院補選や夏の東京都知事選で、他候補の演説を妨害したり、公営ポスター掲示板の枠を「販売」したりする行為が問題化した。非常識な政見放送は数年前から目立ち、ひどくなる一方だ。 いずれも公選法が想定しない事態であり、選管や警察にも困惑と混乱がみられる。放置すれば、公正な選挙を損なう。 与野党からは規制強化を求める意見がある一方、憲法が保障する「表現の自由」を踏み越えない配慮も必要である。 現行法でどこまで制限できるのか。少なくとも総選挙前に、与野党で早急に合意できるガイドラインを詰めてはどうか。都道府県で違いが生じるのは避けたい。選挙活動で守るべき規範を国会決議で意思表明したり、SNS(交流サイト)事業者に健全化への協力を求めたりするのも選択肢だろう。 4月の衆院東京15区補選では、政治団体「つばさの党」の候補者らが対立候補を追い回し、大音量を立てて演説を遮るなどした。選挙後に公選法違反(選挙の自由妨害)で逮捕、起訴されたが、被告らはSNSで妨害の様子を動画配信し、収益を得ていた。 7月の東京都知事選では、政治団体「NHKから国民を守る党」が関係団体を含め24人を擁立し、掲示板の枠を確保。一定額の「寄付」で自由にポスターを貼れるとし事実上売り出した。風俗店の広告や動物の写真があふれた。 政見放送では芸能人のゴシップや差別発言のほか、服を脱ぐ候補もみられた。有権者に選択材料を提供するため公費で運営される手段が、売名や営利目的で利用されることが広がれば、選挙自体への不信と冷笑を招いてしまう。 与野党は先月、罰則付きでポスター掲示の「品位保持」などを定める公選法改正の方向で一致したが、9日に解散する臨時国会では議論の時間がないとみられる。 国会質疑よりも、総選挙での有利さを優先した石破茂首相の党利党略が影響したといえよう。 与野党は緊急対応の一方、有権者を遠ざけるほど選挙を縛り、「べからず集」と呼ばれる公選法の抜本改正を検討すべきだ。デジタル技術を踏まえ、掲示板の電子化や政見放送の動画配信化、事前運動や配布文書の緩和、投票機会の拡大など課題は多い。若者や有識者も交えた活発な議論を望む。

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