「殺されたくなかったらパンツ脱いで」不同意わいせつ 供述を「覚えてない」と語る被告の〝主張〟

「娘は被告人から急に声をかけられ、殺されるかもしれないという恐怖を味わいました。被告人が自分の衝動を抑えてさえいれば、こんなことにはならなかったのです」 8月13日に東京地裁で開かれた伊藤智彦被告(26)の第5回公判。突然、夜道で知らない男性から性加害を受けた女子高生Aさんの母親の意見陳述書は、被告人に対する怒りに満ちたものだった。 「’24年10月29日、警視庁石神井署は不同意性交等や強盗の疑いで伊藤智彦被告(26)を逮捕しました。伊藤被告は9月11日に、路上で見かけた女子高生Aさん(当時16歳)に対して、『殺されたくなかったら、パンツを脱いで』などと脅して下着を奪い、ビニール手袋を付けた右手で陰部を触るなど、わいせつな行為をしたとされます。 その後の捜査のなかで、Aさんが被害に遭う3日前の9月8日にも別の女子高生Bさん(当時17歳)が同じような被害に遭っていたことが判明したのです。検察は伊藤被告をAさんに対する強盗と不同意わいせつ、Bさんに対する不同意わいせつ未遂で起訴しました」(全国紙社会部記者) これまでの公判のなかで、伊藤被告はBさんに対しての罪は認めたものの、Aさんに対しては、「殺されたくなかったら」とは言っていない、陰部を触っていないなど、一部否認している。 第5回公判では、弁護人から伊藤被告が保釈されたことが明かされた。 障害者支援に取り組むNPO法人の代表が作成した更生支援計画にもとづいて、関東の回復支援施設で生活しながら、問題行動の治療に取り組んでいるという。NPO法人の代表は弁護側の証人として出廷し、伊藤被告との面会や法廷でのやり取りを聞いて、「発達障害の傾向が強いと感じた」と証人尋問のなかで述べている。 ◆取り調べとはまったく違う供述 6月6日の第3回公判で行われた被告人質問で、伊藤被告は取り調べの中での供述とはまったく違ったことを主張していた。伊藤被告は、弁護人の質問に答えるかたちで、Bさんの事件について次のように話していた。 「9月8日は、立川で開催されたゲーム音楽のイベントに参加しました。そして夜8時ごろ、最寄りの駅でBさんを発見したのです。なんとなく後をつけている間に、人通りの少ない道に入ったので、もう少しついていってみようと考えました。 そして、Bさんをいちど追い越したところで、『静かにして、パンツ脱いで』と言いました。そのようなことを言ったのは初めてで、なぜ言ったのか、焦っていたので覚えていません。話しているうちにBさんが走って逃げたので、私も来た道を走って戻りました」 そしてAさんの事件が起きた9月11日は、夕方6時ごろ、夕食を買うために外出したという。そのときショルダーバッグにビニール手袋が入っていたことについて、このように説明した。 「私は普段から運動不足なので、スーパーに向かうときに回り道をしたり、普段は通らない道を通ることがよくありました。そのとき、スマホでゲームをやりながら歩くのですが、手汗でスマホがベタつかないように、右手にビニール手袋をしていました」 スマホでゲームをしながら歩いている伊藤被告を、後ろから追い越して行ったのがAさんだった。伊藤被告は向かう方向が同じだからと後をつけ始め、人けがなくなったところで後ろから声をかけたという。 「『何歳? 何年生?』と声をかけました。Aさんに『何でですか?』と言われたので、『いいから教えて』と答えました。Aさんが『何でですか?』と繰り返すので、左手でAさんの右手首をつかんで住宅街のほうに移動して、『パンツ脱いで』と言いました」 弁護人の「パンツを脱いでもらって、どうしようと思ったのですか」という質問には、次のように答えた。 「とくに考えてなかったというか、ただ単に、においを嗅ごうと思ったからです」 隙をみて逃げ出したAさんだが、追いかけてきた伊藤被告にカバンをつかまれ、人気のない場所に連れて行かれたという。伊藤被告はこう続けた。 「目線を合わせるようにしながら『パンツ脱いで』と言いました。そのときに、『叩いたり、危害を加えるようなことはしないよ』とか『ひどいこととか、殺したりしないから脱いで』と言うと、Aさんが自分から脱ぎました」 Aさんが下着を渡すと、伊藤被告はそのにおいを嗅いだ後、Aさんのスカートをめくって太ももを触ったが、陰部には触れてないと主張したのだった。 ◆「覚えていないです」と繰り返した被告 取り調べとはまったく異なる伊藤被告の供述に対して検察官が追及した。まず、右手に付けたビニール手袋については、「被告人は警察や検察での取り調べのなかで、『体を触ると指紋が付いたりしちゃうから、ビニール手袋を用意した』と説明しているんですが、覚えていませんか?」と質問。しかし、伊藤被告は「覚えてないです」と答えるだけだった。 さらに検察官は「被告人は警察や検察の取り調べの中では、『女の子の太ももや女性器を触りました』と話していますが、違うんですか?」と質問した。 しかし、伊藤被告はやはり「覚えてないです」と答えたのだった。 第5回公判では、Aさんの母親の代理人弁護士が意見陳述を行った。冒頭の言葉に続いて読み上げられた内容は、強い処罰感情を感じさせるものだった。 「被害者とその家族という立場からすれば、被告人にはずっと社会に復帰してほしくないと思ってしまいます。しかし、それが叶わないのであれば、せめて被告人が自分がした行為の重大さを本当に理解できるくらいの期間、服役してほしいというのが私の願いです」 この日は、続いて論告弁論が行われた。検察官は、「被告人は自己の性欲を満たすために、性的に未熟なAさん、Bさんの体や精神に深刻な打撃を与えるかもしれないという可能性を無視して本件各犯行に及んでいることから、被告人の意思決定は強く、強く、非難されるべき」などとして「懲役6年」を求刑。一方、弁護人は、伊藤被告に発達障害の傾向がみられることを指摘した上で、「伊藤さんにとって必要なのは刑務所での服役ではなく、支援体制のもとで生活を続けて、二度と同じ犯罪を起こさないように治療を続けることです」と執行猶予付きの判決を求めた。 伊藤被告の更生支援計画を作成したNPO法人の代表は証人尋問のなかで、こう述べていた。 「刑務所内で行われる再犯防止プログラムは認知行動療法といって、ほとんど成功しないといわれています。服役は、罰を与えるという意味はあっても、再犯防止に至るにはほとんど期待できません」 今後、伊藤被告が更生して、新たな被害者を出さないようにするのは重要なことだろう。だが、被害者やその家族が望むのは、伊藤被告の「更生」だけだろうか。判決は9月22日に言い渡される予定だ。

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