おそらく多くの視聴者が「カットなしの完全版の最終話が観たかった」と思ったのではないか。もうそろそろ、不祥事タレントの “出演シーンカット” という慣例、やめにしない? 9月7日(日)に最終話(第8話)が放送された嵐・松本潤主演の日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)。 ある総合病院に新設された「総合診療科」の医師・徳重晃(松本)が、患者たちと丁寧に向き合いながら、反発していた医師たちとの絆を深めていくヒューマンドラマだ。 最終話では、徳重の師匠的存在である高齢の名医が病に倒れるも、治療を拒否。あろうことか「これから一言もしゃべらない」と宣言されてしまうが、そんな恩師に治療を受けてもらうために説得していくストーリーが描かれた。 ■“不完全な最終話” という感覚が拭えない ご存知の方も多いだろうが、本作に重要なキャラクターで出演していた俳優・清水尋也が、麻薬取締法違反の疑いで9月3日に逮捕された。最終話放送の4日前という段階だったため、当然撮影は終わっていただろうが、清水の出演シーンを全面カットして、編集でつなぎ合わせるという異例な対応で放送された。 清水の役どころは、小芝風花演じる準主役の若手医師・滝野みずきと同期の内科医。タイパを重視する現代の若者像を投影したような性格のため、当初は非効率的な診察をしている徳重や滝野との折り合いが悪かった。 ただ、滝野と一緒に診療を進めた中盤回でお互いに理解を深め、それ以降は頼もしい同期として、滝野のよき相談相手となっていた。 さて、迎えた最終話。事前に発表されていたように、清水が演じるキャラはいっさい登場せず。 もちろん、第7話まで普通に出ていたメインキャラが登場せず、まるで最初からいなかったかのようにされていたのは違和感があったが、ストーリーがつながっていないというような不自然さはナシ。よっぽどうまく編集したのだろう、最終話は滞りなくハートフルに幕を下ろした。 そもそも出演シーンがさほどなかったのかもしれないが、最終話でも滝野が深刻に思い悩む展開があったため、おそらく彼女を励まして支えるといったシーンはあっただろう。 また、最終話では過去回に登場した患者たちのその後の明るい姿や、医師たちの成長や改心も描かれたので、清水のキャラにスポットを当てた見せ場シーンもあった可能性は高い。 そう考えると、放送内容はきれいにまとまっていたが、どうしても “不完全な最終話” という感覚が拭えないのだ。 ■対応に追われたスタッフの苦労はわかるが 短期間で清水の出演シーンをカットして上手に編集したスタッフの苦労はわかるし、なんとか放送に間に合わせた努力はねぎらいたい。 ただ、そもそも清水の出演シーンをカットする必要って本当にあったのか? 当たり前だが、TBSにもスタッフにも、もちろんほかのキャストにもなんの罪はないし、無用なトラブルに巻き込まれたという意味では被害者だ。 また、数週間前に逮捕がわかっていたのならまだしも、逮捕されたのは放送の4日前。そんな直前の不祥事への対応ができなくても、テレビ局にクレームが殺到するとは思えない。さすがにスポンサー企業だって、カットせずにそのまま放送することを理解してくれただろう。 だから、放送開始時に《清水尋也容疑者が出演しております。ご了承ください》的なテロップを入れるだけの対応でよかったのではないか。 仮にそのまま放送したら、SNSなどで清水が出演したことを批判する声もあがったかもしれないが、もしそのようなそのネガティブな意見を書き込む人がいたとしても、きっと大半はこのドラマを観ていない。 なぜなら、このドラマが好きで最終話まで追っているような視聴者は、仮に清水の出演で多少の不快感を抱いたとしても、カットなしの完全版が観たいという感情が上回るに違いないからである。 ■安易にクオリティを下げる対応はしないで 端的に言うと、清水のシーンカットという対応は「視聴者ファースト」ではないと感じるのだ。 ドラマだけでなくバラエティにも、不祥事タレントの “出演シーンカット”という慣わしがあるのはわかるが、いつまでもその慣例を続けるのは思考停止すぎやしないか。 急な逮捕で大変でしたが、われわれスタッフはがんばって編集しました――というのは、TBSの過剰な忖度から来る保身行動なのではないかと、うがった見方もしてしまう。 改めて断言するが、主要キャラが最終話でいきなり登場しなくなるなんて作品は、不完全だ。ドラマ制作陣にもいろいろな事情や苦悩があっただろうが、安易に作品のクオリティを下げる対応はしないでくれというのが、いち視聴者としての本音。 どうせ苦労するなら、当初の予定どおり清水の出演シーンも流すために根回しをするといった苦労を選んでほしかった。 いずれにしても、松本潤にとっては久しぶりの日曜劇場主演にケチがついてしまった形だし、このドラマのファンも不完全燃焼と感じる人は多いに違いない。 本当に “出演シーンカット” って “誰得” なのだろう。出演者も視聴者も得をしない慣例なんて、1日も早くなくなってほしい。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『週刊女性PRIME』『日刊SPA!』などに寄稿中