(CNN) 米アーカンソー州ロノーク郡に住むアーロン・スペンサーさん(37)は、娘のチワワの狂ったような鳴き声で目が覚めた。14歳の娘の寝室を確認すると、パーカーのフードをかぶってぐっすり眠っているようだった。 しかし、よく見ると、フードをかぶっていたのはぬいぐるみだった。娘は消えていた。 家族は神経をとがらせていた。3カ月前、当時13歳だった娘は、家族の友人宅で出会った67歳の男に性的虐待を受けたと告白した。加害者とされるマイケル・フォスラー容疑者は児童へのネットストーカー行為や性的暴行など数十件の容疑で逮捕されたものの保釈されていた。 そして、昨年10月8日の夜半過ぎ、娘は姿を消した。スペンサーさんは車に飛び乗り、自宅周辺の路上を探し始めた。妻のヘザー・スペンサーさんは911番に通報し、親戚には娘が一緒にいないか確認した。 スペンサーさんは町から東へ約16キロの夜道で、娘を助手席に乗せたフォスラー容疑者の白い車を発見した。スペンサーさんはUターンし、ヘッドライトを点滅させ、クラクションを鳴らしながら車を追跡した。次の交差点にさしかかったとき、フォスラー容疑者の車に追突し、道から押し出したという。 この直後、フォスラー容疑者は側溝に仰向けで倒れ、死亡した。体には複数の銃創があった。 検察はスペンサーさんを殺人罪で起訴。銃器を用いて犯行に及んだ場合に禁錮刑の刑期を引き上げる加重刑も付け加えられた。スペンサーさんはフォスラー容疑者殺害を認めている。 事件は全国的な注目を集め、SNS上では、娘を守ったスペンサーさんを英雄とたたえる人々から激しい怒りがわきあがった。スペンサーさんに対する起訴取り下げを求める嘆願書が複数提出され、中には35万人超が署名したものもあった。州の銃権利擁護団体は、スペンサーさんの行動は正当だと宣言。訴訟費用のための弁護基金を設立した。 スペンサーさんの裁判は2026年1月に予定されている。ある専門家は、裁判の結果は一つの重要な問題に集約されるとの見方を示す。それは、陪審員が、娘を守るためにスペンサーさんが相手を死に至らしめるほどの暴力を行使したことを正当だと考えるか、という点だ。