生活保護受給者が刑事事件などで勾留された場合に、保護費の支給を一時停止させるために自治体に通知する制度を運用している都道府県警が大阪府警と京都府警の2府警にとどまることが14日、分かった。留置施設に収容されている間の保護費が口座に手つかずで残り、釈放後に実質的な〝ボーナス〟となる二重支給を自治体と連携して防ぐ適正化の取り組みだが、全国には普及していない。 ■導入は大阪、京都のみ 通知の対象となる受給者は全体のごく一部に限られ、個人情報保護の観点からの慎重論も根強くあり、自治体側に導入の機運が高まらないことが、制度が広がらない背景にあるとみられる。 大阪府警が運用しているのは、勾留されている容疑者が生活保護受給者だと判明した場合に、自治体と情報を共有する「収容情報通知制度」。平成26年から大阪市と試験的に取り組みを始め、令和元年までに大阪府下全域に拡大した。 制度開始前、受給者の勾留情報はケースワーカーが長期間の留守に気づき、警察に照会しなければ分からず、状況把握に数カ月を要することも。発覚までに本来は必要のない保護費が支給されていたという。 府警によると、府内の通知者数は毎年延べ800~900人前後で推移。昨年は過去最多の延べ1034人に上った。 大阪市では、通知を受けると、食費や光熱費などに充てる生活扶助費の支給を停止する。20~40代の単身者の場合、月額7万6420円の生活扶助の基準額から勾留日数分を日割りし、社会復帰後に返還を求めている。 大阪以外では、京都府警が3年に京都市、7年に宇治市と協定を締結し受給者の勾留情報を両市に通知している。京都市の担当者によると、制度導入の際には大阪市の担当者からヒアリングするなど「大阪モデル」を参考にしたという。 ■対象ごく一部、自治体にインセンティブ働かず 生活保護法4条は、生活困窮者に対し「その利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」を活用することを求め、それでも足りない場合に保護が実施されるという「補足性の原理」を規定。勾留されると刑事収容施設法に基づいて衣食住が担保されるため、補足性を満たさず、この間は保護の必要性がなくなる。 通知制度はこの補足性の原理が根拠となっているが、警察が被勾留者の情報を自治体に伝えることは個人情報の目的外利用にあたるとして、制度導入に際してはプライバシー保護の観点から慎重意見も根強くあった。このため府個人情報保護審議会は制度についての答申の中で「目的は収容期間中の二重支給の防止にあり、被保護者に対する偏見を助長しないよう十分説明すること」と注文をつけ、最小限の人員で情報管理を行うなど厳格な運用規則が定められた経緯がある。