【解説】国連のジェノサイド報告書、ガザでのイスラエルの行動を率直に糾弾

ジェレミー・ボウエン BBC国際編集長 国連人権理事会の調査委員会が16日に発表した報告書は、イスラエルがガザでジェノサイド(集団殺害)を行っているとする証拠を提示する、詳細かつ厳しい内容となっている。報告書は、イスラエルが1948年に設立されて間もない国際連合で採択されたジェノサイド条約に違反していると主張している。「ジェノサイド」という言葉と、それを犯罪として定義したこの条約は、ナチス・ドイツによるユダヤ人600万人の虐殺を直接のきっかけとして成立したものだ。 イスラエルは、ガザでの行動が戦争法および国際人道法を構成する条約や規約に違反しているという、各方面からのあらゆる主張を拒否している。イスラエルは、自分たちの行動はすべて自国民の保護と、2023年10月7日にイスラム組織ハマスとイスラム聖戦に拘束された人質の解放を目的とした自衛行動だと位置づけ、正当化している。人質のうち約20人は、現在も生存しているとみられている。 イスラエル側は、国連のこの報告書を、ハマスに触発された反ユダヤ主義的なうそだと一蹴している。報告書は、国連人権理事会が設置した調査委員会によるものだが、イスラエルとアメリカは、同理事会は自分たちに偏見を抱いていると主張し、ボイコットしている。 しかし、この報告書の内容によって、イスラエルの行動への国際的な非難はいっそう高まるはずだ。イスラエルを非難する中には、伝統的にイスラエルと友好的な西側諸国や、2020年のアブラハム合意でイスラエルと関係正常化を図った湾岸地域のアラブ諸国も含まれている。 ニューヨークで始まっている国連総会では今後、イギリス、フランス、オーストラリア、カナダなどが、独立したパレスチナ国家の主権を承認する多数派に加わる予定だ。 この動きは、象徴的な意味合いを超えるものになる。100年以上前に欧州のシオニスト系ユダヤ人たちがパレスチナに入植したことを発端にした紛争について、今後の議論が変化することになる。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナ国家の承認を「反ユダヤ主義的」で、「ハマスのテロに報酬を与えるもの」だと非難している。 ネタニヤフ氏は、ヨルダン川から地中海に至る一切の土地でパレスチナ人が独立を得ることはないと述べ、パレスチナ国家はイスラエル人を危険にさらすと主張している。イスラエルの宗教的ナショナリストたちは、この土地は神によってユダヤ人のみに与えられたものだと信じている。 1948年の条約は「ジェノサイド」を、国民的、人種的、民族的または宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われた行為と定義している。この場合は、ガザのパレスチナ人が行為の対象となっている。 報告書は、ガザ内部およびイスラエル国内の刑務所で、パレスチナ人に対してどのようなことが行われているかを詳細に記している。 多数の告発内容の中には、イスラエルが保護義務を負う民間人を標的にしていることや、「食料、水、医薬品の欠乏を含む非人道的な状況によって、パレスチナ人の死亡を引き起こしている」との記述がある。これは、イスラエルによるガザ封鎖が、総合的食料安全保障レベル分類(IPC)が「飢饉(ききん)および広範な飢餓」と認定した事態をもたらしているという前提での内容だ。 国連の新しい報告書はまた、イスラエル国防軍(IDF)がガザ市の全住民に南部への移動を命じた、強制移動についても詳述している。イスラエルのこの命令に、約100万人が影響を受けているとされる。イスラエルの攻勢は激しさを増しており、空爆や多数の建物の破壊が進んでいる。IDFが「ハマスのテロの塔」と呼ぶ高層ビルも、相次ぎ破壊されている。 国連報告書はまた、イスラエルが「出生を妨げる措置」を実施したと指摘。ガザ最大の不妊治療センターを攻撃したことで、約4000個の凍結胚と1000個の精子および卵子のサンプルが破壊されたと報告している。 軍事行動がどういう結果をもたらしたかという説明に加え、報告書はジェノサイドを扇動したとして、イスラエルの高官3人を名指ししている。 そのひとりは、2023年10月9日に「人間の姿をしたけだものと戦っている」と発言した当時のヨアヴ・ガラント国防相だ。ガラント氏はネタニヤフ首相と同様、国際刑事裁判所から戦争犯罪に関する逮捕状が出されている。 ネタニヤフ首相も、ガザでの戦争を旧約聖書に登場する敵「アマレク」との戦いになぞらえたことで、扇動の疑いがかけられている。聖書では、神がユダヤ人に対し、アマレクの男、女、子ども、財産、家畜をすべて滅ぼすよう命じている。 3人目は、アイザック・ヘルツォグ大統領だ。ヘルツォグ氏は戦争が始まった最初の週に、ハマスに対して蜂起しなかったガザのパレスチナ人を非難した。同氏は2023年10月13日、「あそこにいる民族全員に責任がある」と発言した。 法的にジェノサイドの罪を立証するのは難しい。ジェノサイド条約の起草者や、国際司法裁判所(ICJ)が近年の判例で示した解釈はわざと、法的ハードルを高く設定している。 ハーグのICJでは、南アフリカがパレスチナ人へのジェノサイドをめぐり、イスラエルを訴えている。この訴訟の審理には数年かかる見通しだ。 しかし、イスラエルの攻勢が続き、さらに激化する可能性がある中で、この国連報告書はガザでの戦争をめぐる国際的な分断を一層深めることになる。 片側には、ガザでの殺戮(さつりく)と破壊の即時停止を求め、イスラエルの封鎖によって引き起こされた飢饉を非難する国々がある。これにはイギリスとフランスも含まれる。 他方には、イスラエルとアメリカがいる。ドナルド・トランプ大統領の政権は、イスラエルがガザでの戦争や中東他地域での空爆を継続する上で不可欠な軍事支援と外交的庇護を提供し続けている。 (英語記事 Jeremy Bowen: UN genocide report a blunt indictment of Israel's actions in Gaza)

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