「『あっ、カネがない!?』。回って来た自分のトレーを見た瞬間、思わず声を上げていました。リュックの左に置いた現金がごっそりなくなっていたのです。手荷物検査対応の若い保安検査員の態度は最初からおかしかったのですが、本当に盗んでいたとは――」 日本を代表する空の表玄関・羽田空港で、驚きの窃盗事件が発覚した。警視庁空港署は、乗客の手荷物検査を担当する空港の保安検査員・松本龍容疑者(21)を、検査の際にトレーに置かれた現金9万円を盗んだとして、9月15日までに窃盗容疑で逮捕した。 「松本容疑者は現金を盗んだ後にトイレの個室に移動。補充用のトイレットペーパーを手に取ると、その芯の中に現金を隠したそうです。今年8月からのわずか1ヵ月たらずの間に70~80回ほど犯行におよび、合計で150万円ほど盗んだと自供しています」(全国紙社会部記者) 空港の手荷物検査は、いうまでもなく乗客の「安心・安全」を守るため行われている。その検査を担う保安検査員が、あろうことか、トレーに置かれた乗客の現金を恒常的に盗んでいたことが発覚したのだ。 本誌は、現金を盗まれた30代の男性被害者から事件の詳細を聞くことができた。冒頭の発言は、その一部だ。以下は、取材のなかで浮かび上がった松本容疑者の被害者への対応の一部始終である(但し書きがない場合、「」内の発言は被害者男性談) 「私が乗った便は、9月13日午後7時15分羽田発福岡空港行きJAL333便です。手荷物検査用のトレーには、リュックと携帯、それにズボンの左ポケットから10万円を出してリュックの左側に置きました。10万円は、直前に一緒にいた上司から、『今夜は息抜きにみんなで飲んで食べてこい』と手渡されたものでした。 でも、金属探知機をくぐって出てきたときには、トレーに置いた10万円がなくなっていたのです。検査員の方も集まって探してくれましたが、見つからない。監視カメラを見てもらうよう頼んだのですが、驚いたことに『その角度からの監視カメラはない』と言われました」 ◆なぜ会社は犯行に気付けなかったのか その後、十数分ほど待たされたが、カネは発見されてなかったという。 「しびれを切らして、実際に手荷物検査をしていた若い保安検査員に直接話したいと頼みました。その人が、後で知りましたが松本という人でした。『10万円をトレーに置いたのを確認しましたね』と聞くと、小さな声で『はい、確認しました」と認めたのです。『なくなっているのは、あなたが取ったからではないですか』と問いただしましたが、『取っていません』の一点張り。さらに疑っている私に、制服の下のワイシャツの胸ポケットまで見せて『取っていません』とさらに言うのです。少し不自然でした。 保安検査員の上司の方も来ていて、トレーの検査モニター画面をチェックしていたのですが、突然『うわ!!』と言うと、表情が強張りました。その直後に警察官が、松本を別室に連れていきました。そのあと、『後日、連絡します』と保安検査員の上司の方に言われました」 被害男性は結局、25分にわたり足止めを食らったという。その日はそのまま福岡へと向かったというが、その夜、東京空港警察署から「検査した保安検査員が取っていました」と電話があった。 「空港の保安検査は民間の会社に委託されていて、その会社からも『謝罪したい』とショートメールがありました。謝罪はもちろんですが、それ以上に驚いたのは松本が何十回も犯行を繰り返し、会社もそれを見抜けなかったということです。会社の管理体制はどうなっているのか……。もちろん、羽田空港にも責任があると思っています。 発表された被害額は9万円となっていますが、私は間違いなく10万円を置いたはずです。残り1万円はどこにいってしまったのか。そこもきちんと捜査してほしいと思っています」 男性は16日に東京空港警察署に被害届を出したという。「余罪も含めて徹底捜査した捜査をしてほしい。そうでないと怒りの気持ちは収まりません」と憤りを隠さない。全容解明はもとより、搭乗客の「安心・安全」を守る空港の警備・管理体制にも、根本からの見直しが問われている。