10年前、20年前、30年前に『FRIDAY』は何を報じていたのか。当時話題になったトピックを今ふたたびふり返る【プレイバック・フライデー】。今回は10年前の’15年9月18日号掲載の『東京・中野 全裸で絞殺された美人劇団員 大都会で散った女優の夢』を紹介する。 女優を夢見て上京した一人の女性が東京・中野のマンションで遺体で発見された『中野劇団員殺人事件』。被害者の女性はどういう人物で、なぜ殺されなければならなかったのか。発生当初の事件を取材した記事だ(年齢・肩書はすべて当時のもの。《》内の記述は過去記事より引用)。 ◆全裸で仰向けの状態で玄関に 《女優の卵だった彼女は全裸で玄関に仰向けに倒れていた。顔にタオルケットがかけられ、めくると顔面は無残に鬱血。首には絞められたあとがあった。 8月26日午後10時頃、東京・中野区のマンション2階の自室でAさん(25)の遺体が見つかった。玄関にはカギがかかっており、いわゆる密室状態。室内が荒らされた形跡はなかった。 「首にひものようなもので絞められた幅1~2㎝の圧迫痕がある以外、目立った外傷や打撲のあとなどはありません。死因は頸部圧迫による窒息死です。部屋のカギは持ち去られたようで、財布とトートバッグ、黒いリュックサックも見つかっていません」(捜査関係者) 乱暴された形跡はないという。 「被害者の爪には犯人のものと思われる皮膚片が残されており、口周辺と上半身に唾液が付着していました。男性のDNAが検出されましたが、精液はなかったようです」(社会部記者)》 Aさんは宮城県の出身。高校時代の同級生は彼女の人柄について、「笑ったときのえくぼが印象的な女の子でした。控えめな子だったので、今回の事件で男性とのトラブルがあったと報じられているのが信じられません」と話していた。 地元の大学を卒業後、上京してアルバイトをしながら女優を目指す。現場となってしまったマンションは築19年の鉄筋コンクリート3階建て。18㎡のワンルームでオートロックもないため、家賃は5万円台という格安物件だった。彼女の暮らしぶりを当時の記事では次のように紹介している。 ◆顔見知りの犯行とみられていたが… 《イマドキとはとても言えない狭い部屋で、夢に向かって奮闘していたのだ。アルバイト先は新宿駅にほど近い、超繁華街の居酒屋。劇団の稽古を優先するため、深夜11時から朝5時までをバイトにあてていた。彼女はツイッターでこんなふうにつぶやいている。 〈居酒屋のバイトおもしろい。なんで酔っぱらいって脱ぎたがるんだろう〉 〈一緒に働いてきたバイト仲間が辞めちゃう。さみしい〉》 生活に追われながらも夢を追っていたAさんを誰が殺害したのか。遺体発見前日の25日0時半過ぎにLINEのメッセージを読んだ履歴が残されていたが、朝11時からの劇団の稽古には現れることはなかった。階下の住人の、「夜2階でドスンドスンという音がして女性のうめき声が聞こえた」という証言もあった。そのため、犯行は25日未明から午前中にかけて行われたとみられた。 また、前出の同級生が話していたように、事件発生直後にはAさんと男性とのトラブルを目撃したという証言がいくつか報じられており、真っ先に疑われたのは当時交際相手だった同じ劇団の男性だった。しかし、現場に残された犯人のものと思われるDNAとその男性を含むAさんの周囲の人物のDNAは一致せず、捜査は長期化の様相を見せ始めていた。 《「当初は顔見知りの犯行の線が強いとみていました。しかし今は交友関係にとらわれずに捜査の範囲を広げて、防犯カメラの解析など、地道に捜査を進めています」(捜査関係者) 近所の住人も、「捜査員に、『最近このあたりで不審者を見なかったか』と聞かれました」と証言する》 Aさんは直近の劇団の公演に出演する予定だった。所属劇団のブログには《個性的なメンバーが集まって作るこの舞台、とってもハートフルな作品になるだろうなぁと、わたしも今からワクワクしています》と、公演に胸をふくらませる様子が書かれていた。 25歳の若さで女優への夢を絶たれてしまった彼女の無念はいかばかりだろうか──。 ◆犯人は見ず知らずの男だった 翌’16年3月12日に逮捕されたのは、事件当時Aさんのマンションから約300m離れた場所に住んでいた男性・X(当時37)。彼は事件直後にアパートを引き払い、福島県の実家に転居していた。Aさんとはまったく面識がなく、通り魔的な犯行だった。逮捕当初は「被害者について全く知らない。被害者のところに行った記憶もないし、殺してもいません」と話していたが、その後Aさんを殺害したことを認めた。Xは’19年4月に無期懲役判決が確定している。 事件が起きて1週間後、犯人を捕らえるために独自に〝捜査〟を始めた人物がいた。最初に犯人だと疑われたAさんの交際相手・宇津木泰蔵さん(当時31)だ。Aさんが立つはずだった舞台を最後に役者を辞め、昼間はアルバイトをしながら毎夜、犯人の影をもとめて現場周辺を歩き回った。原動力となっていたのは、「恋人の無念を晴らす」という犯人への憎悪だけだった。彼がX逮捕の知らせを受けたのは、Aさんの墓参りのために仙台へ行こうとしていた朝だった。だが、それでも彼の心の中で区切りをつけることはできなかったようで、その後拘置所でXに面会もしている。 宇津木さんは4年ほど前から俳優活動を再開した。事件から10年経った今年の8月、彼はYouTubeチャンネル『日影のこえ』で現在の心境を語っていた。 「まずは彼女との夢だった〝食える役者〟になること。そしていつかアカデミー賞の舞台に立つことを叶えたい」 Aさんの遺族とは「10年はあっという間だった」と言葉を交わしたという。25歳で夢半ばにして命を奪われてしまったAさんの無念を本当に晴らすのはこれからだ。