【独自】拘束直後の現場映像を入手…組織のキーマン『女JPドラゴン』の素顔「子育ての裏で特殊詐欺」

〈特殊詐欺を行う不良邦人が跋扈するフィリピンで、一人の日本人女性が拘束された。彼女は現地の裏社会に巣食う犯罪組織『JPドラゴン』と深い関わりを持つ存在として当局にマークされてきた人物だった。キーマンの身柄確保は何を意味するのか……。ノンフィクション作家・水谷竹秀氏が深層に迫る〉 ◆「直前まで特殊詐欺を行っていた」 筆者は拘束直後の現場をとらえたある映像を入手した。 フィリピンを拠点に特殊詐欺を続けていた日本人の男女5人が10月7日夜、ルソン地方ケソン州で拘束された時の様子だ。現場は、首都マニラの中心部から南に車で3時間ほど離れたアパートの一室。皆、Tシャツに短パンといったラフな格好で、捜査当局から取り調べを受けていた。 日本人たちが着くテーブルの上には、書類の束が置かれている。それを手にしたフィリピン入国管理局の幹部が、タガログ語で周りの捜査員にこう説明する。 「これは彼らが日本に掛ける電話番号のリストだ」 書類の左上には「りすと」とひらがなでプリントされ、氏名、生年、住所、電話番号などの個人情報が並んでいる。電話番号の隣には「若い」、「R」などと書き込みがされ、対象者によっては取り消し線が引かれている。電話がつながらないか、本人不在を示しているとみられる。このほか5人からは大量のSIMカードも見つかった。この幹部は私にこう説明した。 「5人は拘束される直前までアパートを隠れ家として、特殊詐欺を続けていた。それを示すのが個人情報のリストやSIMカードだ」 拘束されたのは、当局資料によると岩本三矢子(34)、原田訓睦(48)、有馬伸行(45)、ヤノ・ユウヤ(33)、大澤歩(33)の5人。警察官を装って高齢者からキャッシュカードを騙し取り、多額の現金を引き出した窃盗事件に関与したとして、’23年6月に福岡簡易裁判所から逮捕状が出されていた。 5人の拘束に至った経緯について、同幹部はこう説明した。 「原田の居場所については1ヵ月ほど前から把握していた。今回、まずは原田の隠れ家へ行き、他の4人の居場所を吐かせた上で拘束した。隠れ家は全部で4ヵ所あった」 ◆フィリピンの“闇の存在”との蜜月写真 5人は現地不良邦人の犯罪組織『JPドラゴン』と接点を持っていた。私の手元にある1枚の写真がそれを示している。ビルの屋上でパーティーをしている様子を撮影したもので、テーブルにはウイスキーのボトルなどが並んでいる。そこにJPドラゴン幹部の小山智広受刑者(51・窃盗罪で懲役3年6ヵ月)と岩本らが写っている。事情に詳しい関係者が語る。 「これは3年ほど前の年末に開かれた花火大会の時の一コマです。吉岡の家のベランダにJPドラゴンのメンバーやかけ子たち数十人が集まっていました」 「吉岡」とは、今年6月にフィリピンで拘束されたJPドラゴントップの吉岡竜司容疑者(55)のことだ。吉岡は闘鶏賭博や飲食店経営などを手掛け、フィリピンの邦人社会では“闇の経営者”として知られていた。 そのJPドラゴン内に、岩本は箱(特殊詐欺を行うチームのこと)を作り、他の4人を率いていたとされる。影響力のある立場のようで、「女版JPドラゴン」と呼ぶ者もいたという。ぽっちゃりした体型で、拘束時は黒いTシャツに黒の長ズボンをはき、黒縁メガネを掛けていた。そんな岩本には、少し複雑な事情があった。幹部が続ける。 「岩本は『子供がいる』と白状した。まだ小さな男の子だ。拘束時にはフィリピン人の共犯者が面倒をみていたから、現場にはいなかった」 子供は現在、5歳。フィリピンで岩本と面識があったという元かけ子の男もこう証言する。 「フィリピンでは『アスカ』っていう偽名を使っていました。金融庁の職員を装って電話をするかけ子の役がめちゃくちゃうまかったですね。同じかけ子のメンバーと子供を作ってしまい、日本で出産した後、子供と一緒にフィリピンに戻ってきたんです」 フィリピンに滞在していた岩本は’18年5月、日本に帰国した。その後、日本で男児を出産。その男児とともに’20年2月にフィリピンへ再入国した。生後6ヵ月の子どもをフィリピンへ連れ、特殊詐欺を続けながら子育てをしていたのだ。父親の所在は不明。同幹部は言う。 「岩本の子供を適切な施設に入れるため、現在、在フィリピン日本国大使館に働きかけている」 岩本ら5人を含め、フィリピンの捜査当局は今年に入り、特殊詐欺に関与した日本人容疑者少なくとも16人を拘束した。それでもなおJPドラゴンのメンバーたちは現地に潜伏を続けている。ナンバー2のYも野放し状態で、当局幹部は「あと何人いるかわからない」と語る。 トップの吉岡は入国管理局の施設に収容されたものの、日本へ強制送還される目処は立っていない。JPドラゴンと捜査当局の「攻防」は今後も続きそうだ。(文中、一部敬称略)

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