初公判まで7年超、「AHT」立証の難しさ 福岡・乳児傷害致死

生後11カ月の笑乃ちゃんが搬送先の病院で亡くなったのは2018年7月31日だった。母親の松本亜里沙被告(29)が傷害致死容疑で逮捕されるまでは3年半あまりがかかり、初公判までは7年超を要した。捜査と公判準備が長期化した背景には、乳幼児頭部外傷(AHT)を巡る傷害致死事件の立証の難しさがある。 AHTは「乳幼児揺さぶられ症候群」(SBS)よりも広い概念で、揺さぶりだけでなく、頭部を打ちつける行為なども含む医学的な用語として日本小児科学会などが提唱している。 AHTが問題になる児童虐待事件の多くは、現場が密室で目撃者もおらず、客観的な証拠が乏しい。そのため、診断した医師らによる医学的所見に基づく立証がカギとなる。 だが、ハードルは高い。傷害罪や傷害致死罪の認定には、偶発的な事故では説明できない故意の立証が必要だからだ。急性硬膜下血腫や頭蓋(ずがい)骨の骨折は、症状やCT(コンピューター断層撮影)検査などの所見が似ている。家庭内での転倒や落下などによる偶発的な負傷か虐待かの区別がつきにくい場合があり、小児科医と脳神経外科医で見解が異なることも少なくない。 日本弁護士連合会刑事弁護センターによると、14年以降、AHTやSBSが疑われる傷害や傷害致死事件を巡り、1審や2審で言い渡された無罪判決は全国で20件を超える。 松本被告の裁判員裁判でも虐待によるAHTが認められるかが主な争点となる。裁判員は難しい判断を迫られ、判決の行方が注目される。【森永亨】

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