娘に対する暴行容疑で逮捕され、その後釈放されたプロ野球・読売ジャイアンツの阿部慎之助(あべ・しんのすけ)監督(47)は5月26日、「多大なご心配とご迷惑をおかけしました」、「こういう形で去ることは、本当にご迷惑をかけていると思います」と会見で涙ながらに謝罪して、監督を辞任した。 また公表された手紙で、娘は「チャットGPTに相談して児童相談所に連絡したが、警察が来たのに驚き、父が警察に連行される姿を見て泣き崩れました」と当時の状況を明かした。 警察庁で長年にわたって犯罪被害者の支援対策などにあたってきた元警察大学校校長で京都産業大学名誉教授の田村正博氏は、「家庭内の事案であろうとも実際に弱い立場の人が被害にあった。それは放置できないと判断して、児童相談所や警察は動いたと思います」と話す。 ◆児童相談所の警察への通報と現行犯逮捕の判断 児童相談所の警察への通報は、「児相は18歳未満の児童虐待などに対応するが、通報内容が深刻なものであれば、公的機関として警察と連携するし、逆に何もしないで事件が起きたら批判されることになります」。 また現行犯逮捕については、「目の前で犯行が行われているか、その直後などの状況でなければ刑事訴訟法上、現行犯逮捕はできないので、逮捕が可能と認定したと思います」。 田村正博 京都産業大学名誉教授: 例えば20年前ならこういう対応はなかったと思います。これだけ長く虐待をめぐる問題などが起きて、家庭内の事案を放置することで事態が悪化して、人命に影響を与えることがあるという前提で行動するようになってきました。 逮捕というのは重たいものなので、警察は逮捕権の運用については慎重であるべきという方針を掲げてきました。ただ人身安全を考えたときに逮捕権を抑制しすぎるのはかえってよくないという認識が広がってきました。 と、児童虐待や家庭内暴力をめぐる社会の環境の変化を挙げる。 チャットGPTへの相談は、「何が正解の回答だったのか。確かに児相の権限外だったかもしれませんが、ではどこに適切な相談先があるのか」として、相談先の拡充などの議論の必要性を訴えた。 ◆被害者への心理的ケアと誹謗中傷問題 田村正博 京都産業大学名誉教授: 被害者に対する心理的なケアはとても大切で、警察の窓口が難しいのであれば、例えば東京都内だと被害者支援の都民センターがあります。被害を受けた方々がトラウマにならないような支援が必要だと思います。 また、「正義をかざして人に被害を与えるという非常に困った状況がある」として、SNSの誹謗(ひぼう)中傷について警鐘を鳴らした。 ◆被害者と加害者を引き離す「逮捕」以外の手段 田村氏と同様に、警察庁で被害者支援などにあたってきた安田貴彦元警察大学校校長は、逮捕という犯罪捜査としての強制力の行使の前に、家族の被害者と加害者を引き離して事情を聞く海外の制度の有効性を挙げる。 安田貴彦 元警察大学校校長: 私も警察で現場指揮をしていたときに、DV事案では難しい判断を迫られました。逮捕すると刑事手続きが始まり、容疑者として取り調べることになり、仕事や学業への影響は避けられません。 一方で、暴力は止めてほしいが、そのあとは正常な家族の関係に戻りたいと要望する家族も多くいます。イギリスやドイツ、スウェーデン、ニュージーランドなどでは加害者を自宅から強制退去させて、被害者を含めたほかの家族から事情を聞く『一時退去命令』の行政的な権限が警察などにあります。 被害者とほかの家族から、加害者を引き離した状況で話を聞くことで、DVの詳細な状況や家族の要望、また加害者の反省の度合いを確認して、逮捕せずに解決できることもあるという。 逮捕の理由の1つが被害者と加害者の分離にあるなら、被害者の保護や加害者の逮捕以外の中間的な選択肢によって、仕事を失ったり学校を辞めたりせずに、家族が元の生活に戻れる可能性もある。 ◆DV被害が申告されない懸念 また安田氏は、今回の事件が誤ってとらえられ、今後のDV事案などに与える懸念も挙げる。 安田貴彦 元警察大学校校長: 加害家族がいきなり逮捕されてしまうなら通報や相談をしないで我慢するというケース、逆に詳細が分からない段階で警察や児相が逮捕など強制力の行使を迫られることもあり得ます。 家庭内暴力などには厳正な態度で臨むことが前提だが、一方で家族の生活への影響をどう考えていくのかも大切なことだ。法整備を含めて捜査機関や行政、支援団体の対応などをあらためて整理し、人々の理解を得ていくことも今後の課題となる。 (フジテレビ上席解説委員 青木良樹)