東京・池袋で起きたストーカー殺人事件を受け、日本で加害者へのGPS装着による監視を求める議論が動き始めている。先行する韓国では、再犯リスクの高いストーカーに電子足輪を装着し、被害者がスマートフォンで位置情報を確認できる仕組みも導入しているが、加害者の人権や社会復帰への影響を懸念する声もある。被害者保護と人権のバランスをどう図るのか、その最前線を追った。 ◆韓国でストーカー加害者にGPS装着 3月、東京・池袋のポケモンセンターで働く21歳の女性が、元交際相手の広川大起容疑者(26)に殺害された事件。女性の首などに十数カ所の傷があった。 広川容疑者は、以前、女性に対するストーカー容疑で逮捕され、「つきまとい」の禁止命令が出されていたが、殺人事件を防ぐことはできなかった。 この事件を受け、5月、自民党の調査会は、ストーカーの加害者にGPSを装着させることを高市総理大臣に提言した。 GPSの装着をすでに実施しているのが、韓国だ。 カク・アラムさん(46)は、2019年から7年にわたりストーカー行為を受けている。 カク・アラムさん: ストーカー行為が始まってから家に防犯カメラを設置したんです。本当に怖くて…。 カクさんを脅迫する50代の男の動画。壁に斧を立てかけて、「俺が何の罪を犯したんだ」「何の罪をそんなにたくさん犯したと」「俺がお前の首根っこをつかんでいる」などと口にした。 男は、カクさんを名指しした脅迫動画をYouTubeに投稿し続けたという。 ◆刑務所から150通の手紙… カクさんは、大手新聞社の記者。仕事で顔と名前を出したのをきっかけに、面識のないこの男からのストーカー行為が始まった。 カク・アラムさん: YouTubeに性的な動画のようなものを上げて来て。私がチャンネルを削除させたら、お金を要求する脅迫をされたんです。 恐怖を感じたカクさんは、刑事告訴。4年前、男は懲役刑になったが、ストーカー行為は終わらなかった。 男は刑務所の中から、カクさんに手紙を送り続けた。そこには、男が描いたイラストもあった。 「今も私はアラムさんを愛しています」「もう1年4カ月刑務所生活をしています。あなたの嘘のせいです」 男の手紙は150通にも及んだ。早ければ、男は数年で出所する可能性があり、カクさんは報復におびえている。 カク・アラムさん: 私を恨んで出所してくるので、とにかく、とても怖いです。 ◆足輪で常時監視… 出所したストーカーの再犯を防ごうと、韓国がおととしから始めたのが、GPS付きの足輪による監視制度。位置情報を把握して、24時間監視している。 これまで性犯罪者などの監視に使っていたが、その対象を広げた。 記者: ベルトの部分はかなり分厚くて、とてもこれを外すことはできそうにありません。 この装置は、最長で20年間の装着が命じられる。 電子足輪をつけているストーカーの加害者は、5月末時点で、韓国国内でおよそ350人。被害者や接近禁止エリアに近づくと警告があり、従わない場合は、法務省の職員が警察とともに現場に出動する。 この取り組みにより、性犯罪の再犯率は、導入前の5年平均と比べて20分の1に激減した。ストーカー犯罪にも効果が期待されている。 6月からは、韓国では新たに電子足輪をつけたストーカーの位置情報を、被害者がスマートフォンで把握できるようになった。 夜道を歩く女性と、後を追う男性。すると、女性のスマートフォンが鳴る。ストーカーが2キロ以内に接近するとアプリで位置を確認できる。 ◆加害者の社会復帰への影響は 被害者を保護する一方で、こんな事態も…。韓国のSNSで拡散された画像には、半ズボンをはくバイクの配達員の足元に黒いGPS装置が…。長ズボンをはいている男性の裾から、黒い足輪が見えている。 この画像を見た人からは、「恥知らずな人間だ」「クビにしよう」などと、差別的なコメントが書き込まれていた。 足輪が加害者の社会復帰の妨げにつながる恐れも懸念される。 韓国の人たちは足輪の装着について、どう考えているのか。 取材班は、賛否を調査。すると、取材に応じたソウル市民32人のうち、反対と答えたのは、わずか1人で、制度が圧倒的に支持されている実態が分かった。 7年にわたるストーカー被害に苦しんできたカクさんも、「加害者の人権は大事ですが、他人の人権を侵害した人の人権が、被害を受けた人と同等に扱われるべきなのでしょうか。それは違うと思います」と強調する。 ◆更生の現場は 被害者の安全を守るためのGPSの装着。一方で、韓国では加害者の更生にも力を入れている。 4月から始まった、最先端の治療。FNNは、海外メディアで初めて現場を取材した。 受刑者の男性が顔につけているのはVR(仮想現実)を体験する装置。受刑者には被害者目線の映像を見てもらい、その恐怖を体験させることで、犯罪行為を行う衝動を抑える狙いがある。 受刑者: 自分が本当に大きな過ちを犯したのだと、本当にものすごく大きな後悔と自責の念につながりました。 ◆日本でも対策の検討進む ストーカー加害者へのGPS装着を巡っては日本でも動きが出ている。政府は、自民党の提言を受け、加害者にGPSをつける制度の検討を始める方針だ。 自民党はどのような仕組みを想定しているのか。 自民党・調査会 葉梨康弘会長: 例えば、(加害者が近づくと)スマホの中に緊急地震速報ってありますよね。ああいう形で、確実に知らせが行くような形にする。 ただし、加害者の監視については、韓国よりも、限定的なものを考えているという。 自民党・調査会 葉梨康弘会長: 24時間加害者の行動を監視する必要はなくて、少なくとも(被害者の)自宅だとか職場だとか、そういったところに近づいた場合には、被害者に知らせる。 被害者の安全と、加害者の人権。そのバランスをどう考えるのか。 命を守るための具体的な対策が、日本でも問われている。 (「イット!」7月15日放送より)