ポール・アダムスBBC外交担当編集委員 イスラエルの占領下にあるヨルダン川西岸のイスラエル入植地との貿易を禁止するというイギリス政府の決定に、イスラエル政府は激しく反発した。その反応の強さは、この事態がいかに重大かを物語っている。 イスラエルの怒りの矛先は、主にイギリスへ向けられた。しかし、12カ国が連携して行動を起こしたという事実に、イスラエルの憤りがいっそう先鋭化したのは明らかだ。 イスラエル・パレスチナ問題についてこれほど劇的に方針を変えればイスラエルが厳しく反発すると、イギリス政府の当局者たちは常に承知していた。しかし、イスラエルの反応の速さと激しさには驚いたようだった。 イスラエルはただちに、東エルサレムにあるイギリス領事館の閉鎖を告げた。この領事館はヨルダン川西岸地区を担当し、同地区ラマラを本拠地とするパレスチナ自治政府との直接交渉を担ってきた。イスラエルはさらに、ガザ地区の安定化と救援活動を調整するために昨年設立された国際ガザ支援センターから、イギリス代表を排除すると発表した。どちらも非常に敵対的な動きだ。 こうした反応から、イギリス、フランス、スペイン、カナダなど計12カ国が8日に発表した措置を、イスラエルがいかに深く懸念しているかがうかがえる。 入植地で製造される製品は、イスラエルの輸出全体の大きな割合を占めるわけではないかもしれない。しかし、入植地で作られる製品を特別扱いすることの、その政治的な象徴性は強力だ。 もう何十年もの間、イギリスなど多くの政府は、イスラエルが占領を続けるパレスチナ領での入植地建設を違法としてきた。それでも、入植地で栽培もしくは製造された製品の禁止には踏み切っていなかった。 イギリスは今回、イスラエルの軍事駐留を含む占領行為はすべて国際法違法だとする国際司法裁判所(ICJ)による2024年の勧告的意見に同意すると発表。それに伴い、両国政府の経済関係も、今回の決定を反映する必要があるとエド・ミリバンド英外相は述べた。 イギリス政府のこの決定に伴い、入植地で作られる製品だけでなく、入植地での建設、インフラ整備、資金提供を行う企業も制裁対象となった。一連の制裁措置には、「占領に実質的に寄与する」武器の販売制限も含まれるなど、大方の予想よりも踏み込んだ内容となっている。 注目されるのは行動だけではない。ミリバンド外相の下院での演説は気持ちのこもったもので、その、時にきわめて深い個人的な思いからくる表現は、実に印象的だった。 外相は自分自身を「誇り高いユダヤ系イギリス人」と呼び、「イスラエル国家を揺るぎなく支持する」と発言した。歴代のイギリス外相で、これほど率直かつはっきりと発言した人は、ほとんどいない。 「入植者によるテロ行為が横行」しており、その入植者たちがヨルダン川西岸の一部でパレスチナ人の「民族浄化」を繰り広げているのに、イスラエル政府は「見て見ぬふりをしている」と、イギリスの外相が発言するのは、実に驚くべきことだ。 ミリバンド氏はこれをイギリスの政策における「リセット」と呼んでいる。今日の発表は時に、過激な再考にも思えた。その結果、イギリスとイスラエルの関係は、ここ数十年で最悪の状態になった。 イギリスの発表に、イスラエルのギデオン・サール外相は猛反発した。イスラエルは今、総選挙を目前に控えており、国内の空気が熱を帯びていることも、そのすさまじく激しい反応の一因となったかもしれない。しかし、ほとんどのイスラエル国民が、サール氏の憤りを共有したことだろう。 多くのイスラエル人は、一部の入植者たちが持つ暴力的なメシア(救世主)思想を非常に問題視している。彼らを国家の恥さらしだとみなすイスラエル人もいる。 しかし、暴力的な入植者を懸念するイスラエル人が、1967年の第3次中東戦争(6日間戦争)でイスラエルが占領した土地への入植は違法だという意見に同意するかというと、話は異なる。 イスラエルのエフド・オルメルト元首相は昨年、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエルを国際社会ののけ者にしたと非難した。これには、ほとんどのイスラエル人が激しく反論するだろう。 しかし、国際社会からの非難が壁のように迫ってきていることも、多くのイスラエル人は実感している。欧州歌合戦「ユーロヴィジョン」やスポーツイベントでは抗議活動があり、政府首脳には国際逮捕状が出ている。そして今度は、入植地で作られた製品が制裁対象になったのだ。この状況にイスラエル人は不安を募らせ、批判に対して、自分たちの正当性を主張しようと身構えている。 一方、パレスチナ人にとっては、これは前進に思えるだろう。 パレスチナ自治政府の外務省は、制裁措置を採択した国々を称賛しつつ、イスラエルの「違法な入植活動」を阻止するための「緊急かつ具体的な措置」を求めた。 ロンドンでは、パレスチナ自治政府の駐英代表フサム・ゾムロット博士が、イギリス政府の決定は「英・パレスチナ関係の転換点」だと評価。イギリスの「勇気ある措置」は、1967年以前の境界線に基づき、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の独立への道を開くのに役立つと述べた。 しかし、イスラエルによる59年間の占領という現実が終わっていないこと、あるいは実質的に変化していないことを、ゾムロット氏は承知している。 実現可能なパレスチナ国家の樹立の見通しは極めて小さく、消滅しつつある。12カ国による今回の協調行動が、イスラエルによるヨルダン川西岸の不可避的な占領を覆す様子など、今のところほとんど見られない。 それほどの影響力を持つのはアメリカだけで、しかもそれはアメリカの意向次第だ。 ジョージ・H・W・ブッシュ米大統領と剛腕のジェイムズ・ベイカー国務長官は1991年、イツハク・シャミル首相率いるイスラエル政府に対し、100億ドルの融資保証を保留すると圧力をかけた。これは、アメリカからの融資が占領地における入植活動の資金に使われないと約束することを、強硬派として名をはせたシャミル首相が拒否したからだった。 しかし、現職のドナルド・トランプ米大統領は今のところ、ネタニヤフ首相の入植地計画を抑制しようとする姿勢を全く示していない。 トランプ氏のMAGA(アメリカを再び偉大にしよう)運動の一部は近年、イスラエルに敵対するようになった。しかし、駐イスラエル大使のマイク・ハッカビー氏は熱心なキリスト教シオニスト(聖書を根拠にイスラエル国家を支持するキリスト教徒)で、ヨルダン川西岸は神によってユダヤ人に約束された土地だというイスラエルの見解を共有している。 したがって、8日の制裁発表によってイギリスと同盟各国は、イスラエルだけでなく、米首都ワシントンにいるイスラエルの最大の支援者とも真向から対立することになる。 (英語記事 Paul Adams: British-Israeli relations at lowest ebb in decades)