「薬物逮捕の弟を救ったボクシング」“元祖・入れ墨ボクサー”がボロボロになるまでリングで戦った理由「兄貴はこんな凄い世界にいたのか」

平成ボクシング史に名を刻んだ大嶋宏成(50歳)と、先を歩く兄の背中を追った弟・大嶋記胤(のりつぐ)(48歳)。元ヤクザ、少年院出身、入れ墨、覚せい剤で逮捕……傷のある過去をもつ兄弟がボクシングによって導かれた更生の道。ノンフィクションライター・栗田シメイ氏が、その軌跡を取材した。【NumberWebアスリート転身特集/全3回の2回目】 2000年2月21日、後楽園ホール。 この日の会場を訪れた観衆の数は、今なおボクシングの聖地の入場者レコードとして歴史に刻まれている。会場にはダフ屋まで現れ、チケット代は10倍以上に膨れ上がった。それでも入場を望む人々の列は絶えない。 メインを張る大嶋宏成の勇姿を一目見ようという観客が大半であった。元極道の入れ墨ボクサーが日本タイトルに挑むというサクセスストーリーは、目の肥えたボクシングファンだけではなく、大衆の心も掴むに十分な衝撃が備わっていた。 相手は、後に22度の防衛を果たすリック吉村。横田基地で働く技巧派ボクサーだった。これまでの対戦者とは異なり、宏成の強打はことごとく空を切る。試合は大差での判定負け。ボクシングの奥深さを痛感する完敗だった。 キャリアにはじめて黒星がついたことを期に、次第に宏成の原動力であった反骨心が薄れていく。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加