韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾が現在審議されているが、この是非を巡って同国の世論は真っぷたつ。しまいには極右系論者の陰謀論がシャレにならないレベルで国民の間に浸透しつつあり、それも新たな火種を生もうとしているのだ。果たして、この国はどうなる!? * * * ■わかり合えない若い男と女 韓国が深刻な社会の分断にあえいでいる。きっかけは昨年12月3日に尹錫悦大統領が44年ぶりとなる非常戒厳令を宣布したことだった。 韓国の国会は300議席中、反尹派の野党が192議席を占め、少数与党化した尹大統領は自分のやりたい政策を実現できずに不満を高めていた。韓国紙東京特派員が言う。 「これに業を煮やした尹大統領がいきなり非常戒厳を宣言したんです。理由は『巨大野党が好き勝手に法案を可決して国政をマヒさせており、その悪行を広く国民に知らせるため』というもの。あまりの唐突な戒厳宣布に『フェイクニュース?』と、首をかしげる国民も少なくありませんでした」 尹大統領は同時に「違反者は処断する」など、剣呑(けんのん)な文言が入った布告令を発表。この布告を根拠に軍と警察官約4800人を動員し、国会封鎖、中央選挙管理委員会の投票データサーバー押収、国会議長、与野党代表など14人の逮捕・監禁、国会に代わる非常立法機関創設などを強行しようとしたとされる。 ただ、その直後に国会が素早く戒厳令の解除要求決議案を可決(賛成190票)し、「尹戒厳」は宣言から2時間後の4日未明に打ち止めに。また、12月14日には「戒厳発令は憲法違反」として、弾劾訴追案を可決(賛成204票)、尹大統領は職務停止になってしまった。 「以来、韓国内では弾劾の可否を巡って、賛成派と反対派の市民が激しく対立し、衝突する事態が続いています」(東京特派員) この特派員によれば、例えば弾劾反対派の集会で、賛成派の偵察を警戒するあまり、路上で歩行者の携帯電話をチェックする不穏な動きもあったという。ネットへの接続履歴を調べることで、弾劾賛成、反対などの政治指向を判断できるためだ。 「そうした尹弾劾を巡る対立が顕著なのが20代の男女です。総じて男性は弾劾反対、女性は弾劾賛成に分かれる傾向が強いという印象があります」 実際、韓国主要紙のひとつ、京郷新聞が昨年12月7日に国会前で開かれた弾劾賛成デモ集会の人員を定量分析したところ、20代、30代の若い女性が29.7%を占めるなど、高い参加率を示す一方で、同年代の男性は8.5%に過ぎなかったという結果が出た。男女間で3倍以上の開きがあるというわけだ。 では、若い男性層はどこに姿を見せているのか? 「尹大統領を支持し、弾劾に反対する保守系の集会です。右派色が強く、ジェンダー平等に不寛容な主張も目立ちます。もともと弾劾反対集会には保守性の強い60代、70代の参加者が多かったのですが、最近では20代、30代の若い男性の姿が目立つようになりました」 その傾向は1月19日に起きた尹支持派によるソウル西部地方裁判所乱入事件にも表れている。尹大統領への拘束令状の発行を不満とするこの襲撃で逮捕された46人のうち、20代、30代男性の若年層は54%にもなる。ライターオイルで地裁に放火しようとした男性に至っては2006年生まれの未成年者だった。