与党「国民の力」が、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領のいわゆる「野党工作説」に力を入れ始めた。尹大統領の弾劾は野党が作った「内乱フレーム」によるものだという主張だ。内乱首謀の被疑者と与党が密着し、弾劾審判での証人の発言の言葉尻をとらえ、裁判の進行の非公正性を主張し、憲法裁判所の決定に従わないとする意向を露骨に表明している。 「国民の力」のユン・サンヒョン議員は9日に記者会見を自ら要望し、尹大統領の弾劾審理で、国家情報院のホン・ジャンウォン前第1次長やクァク・チョングン前陸軍特殊戦司令官などの証言が変わったとして、「(彼らの)偽証と証人買収疑惑が持たれているホン前次長、クァク前司令官、(最大野党)『共に民主党』のキム・ビョンジュ議員、パク・ソンウォン議員を、党と国民の名のもとで告発しなければならない」と主張した。戒厳当時に主な政治家を逮捕して「国会議員を引きずり出せ」と言った尹大統領の指示を暴露した彼らの陳述が、野党によって「汚染」されたというのだ。ナ・ギョンウォン議員は「イ・ジェミョン大統領を生み出すための低級なシナリオ」だと主張した。6日の憲法裁判所の公開弁論で、尹大統領が主張した「ホン・ジャンウォンの工作と、特殊戦司令官のキム・ビョンジュのテレビ出演から、内乱フレームと弾劾工作が始まった」とする陰謀論に便乗したのだ。 しかし、ホン前次長とクァク前司令官は、一貫して尹大統領の不当な指示を証言してきた。尹大統領は、「全員捕まえろ」という政治家逮捕の指示を、「スパイの捜査をうまくやれという激励」だったとして否定しているが、戒厳当日に政治家の逮捕を担当するグループが組織されたという軍の証言と陳述は山ほどある。クァク前司令官の陳述が「議員」から「人員」に変わったという主張も、言葉尻をとらえたものにすぎない。クァク前司令官が尹大統領と通話した内容は、テレビ会議のマイクを通じて配下の部隊にまで共有されたということから、実体的な真実もまもなく明らかになるだろう。 弾劾審判が進めば進むほど、12・3非常戒厳の違憲・違法性はよりいっそう明確になっている。それでも、尹大統領はこれまで国民に謝罪の一言もないまま、自身は政治工作のスケープゴートであり、憲法裁判所は不公正だとする趣旨の主張だけを繰り返している。前日には、憲法裁判所の証人尋問の方法は公正ではないとする公開の立場表明文を出したりもした。「国民の力」はこのような詭弁に距離を置くどころか、憲法裁判所への不服を扇動する尹錫悦大統領のスピーカーの役割を自任している。10日には「国民の力」の親尹派の議員がソウル拘置所を訪れる予定だ。しかし、12・3不法戒厳の現場は、国民全員と全世界がリアルタイムで目撃した。今になって陰謀論を主張しても、戒厳がなかったことにはならない。 (お問い合わせ [email protected] )