闇バイトに応募した若者たちによる強盗事件が昨年夏以降、首都圏を中心に連続して発生し、国民の体感治安は極度に悪化した。いずれも「匿名・流動型犯罪グループ」(通称・トクリュウ)によるものとみられる。警察当局は仮装身分捜査といった新たな手法で臨むことを表明しているが、年が明けての今年1月中旬以降、闇バイト強盗事件はピタリと発生が止まっている。不安をぬぐえなかった国民の間にはひと時の安堵感が広がるなか、警察当局の捜査幹部がその理由と捜査の現状を明かした。 闇バイト強盗事件は昨年8月以降、首都圏を中心に20件以上が連続して発生した。複数の若者たちが住宅の窓ガラスをハンマーやバール状の工具で派手にたたき割って侵入し、住民にちゅうちょなく暴行を加える手口から多くの負傷者が出た。一連の事件で昨年10月には横浜市内で高齢男性が殺害されるといった凶悪な事件も起きた。これまで、指示役に強盗を無理強いされた50人以上の若者たちが逮捕されている。 10月以降も埼玉県所沢市や横浜市などで、11月には東京都葛飾区などで同様の事件は頻発。同一の指示役によるものかは不明だが、年が押し迫った昨年12月22日になっても千葉県内で2件の強盗事件が発生。年が明けた’25年1月の元旦にも愛知県春日井市で2人組による強盗事件があり、2日には茨城県鉾田市で4人組による同様の事件が相次いだ。めでたい正月であるはずが、容赦ない凶悪事件が続いた。 闇バイト事件に対処するため、警視庁と千葉、埼玉、神奈川の各県警は合同捜査本部を設置し、これまで50人以上の実行犯を次々と逮捕。ただ、首謀者や指示役の逮捕には至っていないため、さらなる事件の発生が危惧されてきた。しかし、不思議なことに1月中旬以降、理由は不明ながら同様の事件の発生は確認されていない。 警察当局の幹部は発生が止まっている状況について、「闇バイトの連続強盗事件とは別の事件で、指示役らが逮捕されていて、スマホを使えず募集をすることができないから事件の発生が止まっていることも考えられる」との見方を示す。 ◆逮捕された300人以上の容疑者たち 警察幹部が続ける。 「昨年は闇バイト事件の実行犯の摘発と同時並行的に、オレオレ詐欺などの特殊詐欺についても特殊詐欺連合捜査班が300人以上を逮捕してきた。さらに売掛金の回収のために女性客に売春を強要するなどしていた悪質ホストや、売春目的で性風俗店に女性を紹介したとしてスカウトらも数多く逮捕している。 こうした捜査が進められてきたなか、今年1月以降は闇バイトの強盗事件の発生は止まった。さらに逮捕した悪質なホスト、スカウトの一部には特殊詐欺で逮捕された経歴がある者もいることが確認されている。犯行が止まった時期、さらに経歴などを鑑みれば、特殊詐欺やホスト、スカウトの逮捕者の中に闇バイトの指示役、首謀者がいる可能性はあるとみている」 警察当局は、闇バイト事件の指示役の割り出しを進めてきたが、「壁」となってきたのが、テレグラムやシグナルといった匿名性の高い通信アプリだった。連続強盗事件の実行犯らから押収されたスマホを解析し、消去されてしまった強盗を指示する内容を復元させる『デジタルフォレンジック捜査』が進められてきた。前出の捜査幹部は、 「多くは復元できなかったが、削除されたテレグラムやシグナルの指示内容のうち、『この住宅のタタキ(強盗)をやれ』など、ごく一部を復元できたケースもあった。実際に実行犯はこうした指示に従って強盗事件を引き起こした。しかし、指示をしていたのは誰なのかまでは突き止められていないのが実情だ。アカウントは複数あり、毎日のように入れ代わり立ち代わりで指示を出せる。指示役の特定にまでたどり着いていない」 とも明かす。 トクリュウによるとみられる闇バイト事件は、首都圏の連続強盗事件だけではない。北海道でのサケの密漁や全国各地で発覚しているリフォーム詐欺など、手口を模倣した事件が摘発されている。強盗といった凶悪事件は鎮静化しているが、一時的なものかもしれず、国民の体感治安が悪化するような事態が発生しないとの保証はない。 取材・文:尾島正洋(ノンフィクション作家)