【前編】警察官の顔写真に逮捕マニュアルまで…違法スカウト『ナチュラル』 が使う“闇アプリ”の全貌

執行役員、専務、本部長……。まるで大手企業のような肩書が並び、給与や昇給に関する詳しい記述もある。また、情報漏洩した場合は高額の罰金を科すといった厳しい規則や、警察への対処法、路上でのトラブル処理の仕方など、あらゆるノウハウが詳細に書かれている――。 これは、国内最大かつ最強(最凶)と称されるスカウト集団『ナチュラル』が作成している内部向けの極秘資料である。これらの情報は普段、「本社」と呼ばれる執行部とプレイヤーと呼ばれる現場のメンバーの間で、秘匿性の高い専用のアプリを使ってやり取りされているものだ。 今回、取材班はA4用紙に印刷すると1000枚近くになる大量のデータを入手し、関係者の協力を得て分析にあたった。そこから見えてきたのは、「業務」を遂行し、女性を商品のように扱って莫大な利益を上げている実態だった。そして、厳しい統制で末端メンバーまでを管理し、取り締まりから逃れるためにあらゆる手段を講じている姿も明らかになってきた。 ナチュラルは2000人近くのメンバーを抱え、東京・歌舞伎町(新宿区)を始め、北海道から九州まで全国ほぼすべての繁華街で風俗店などに女性を紹介するルートを持っているという。その強固な組織性と時に見せる凶暴性から、他のグループとは一線を画す存在だと言われてきた。過去には、メンバーに対する凄惨なリンチが明るみに出たこともある。 警察当局は、構成員が入れ替わりながら反社会的な活動を行っている「匿名・流動型犯罪グループ」通称トクリュウと位置づけて、情報収集や摘発を強化している。しかし、別のスカウト集団『アクセス』は’24年11月にトップ、今年2月にナンバー2と目される男が逮捕されたが、ナチュラルについては摘発されるのは現場のスカウトがほとんどで、上層部の詳しいメンバー構成や組織運営の実態については、明らかになっていない部分も多い。スカウト業界に詳しい人物は、こう解説する。 「構成員の数や得ている収益からみても、ナチュラルが最強のスカウト組織であることは間違いないでしょう。通常、スカウトグループの捜査は警視庁だと生活安全部が担当しますが、ナチュラルについては組織犯罪対策部の暴力団対策課が中心になって捜査しています。それだけ″反社″の色が濃いということ。かつては敵対していた暴力団とも手打ちをして、今はむしろカネの一部が向こうに流れているとみられています。内部統制は、ある意味でヤクザ以上に厳しいと言われ、捜査への対策や情報管理を異常なまでに徹底しているところも大きな特徴です」 スカウトの仕事は、路上で声をかけたり、SNSで言葉巧みに誘ったりして女性を集め、主に風俗店などに送り込むことである。最近は、「出稼ぎ」と呼ばれる海外での売春の斡旋や、AVへの出演を仲介することも多くなっているという。 スカウト側は、女性を店に紹介すると店側からスカウトバックという報酬を受け取ることができる。報酬は女性の稼ぎのおよそ15%で、女性がそこで働いている限り続く。ヤリ手のスカウトの場合だと月収が数百万円以上にのぼり、なかには年収5000万円以上を稼いでいる者もいる。ただ、条例で路上などの公共の場所で声をかけることが禁止されている場合はもちろん、そうでなくても風俗店などに紹介すること自体が、職業安定法違反(有害業務紹介)として摘発対象になる。ホストへの借金を返すためだとして女性を半ば無理やり店に送り込むという悪質なケースもあり、全国の警察に取り締まり強化の指示が出されている。 ◆洗練されたアプリの中身 ナチュラルの連絡用アプリはチャットやファイル共有、通話などの機能がついており、マイクロソフト社が開発しビジネス界で広く使われている『Teams』などのコミュニケーションツールと比べても遜色がない。もちろんメンバー以外は入手できず、本部から指示された特殊な方法でダウンロードする。 驚くのがその秘匿性(ひとくせい)の高さだ。スマートフォンに表示されているアイコンは、一見すると通常のアプリにしか見えなかった。アプリを開いてもそこには一般的なWEB広告に似せた画面が表示されるだけで、中身を見ることはできない。しかし、ある手順で暗証番号を打ち込んでログインすると、画面の様子は一変する。 そこにはおびただしい数の連絡用掲示板やチャットグループが出現し、全国の現場のスカウトや「本社」の担当者が、頻繁にやり取りしている様子がリアルタイムで確認できた。それらは内容さえ別にすると、まるで大規模な企業の社内連絡のようだった。 取材に応じたナチュラルの元メンバーは、次のように話す。 「たとえメンバーが捕まり、スマートフォンを警察が押収してアプリを開こうとしても、すぐには中身を見られないような仕組みになっています。暗証番号などは絶対に言うなと普段からきつく教育されていますし、取り調べで口を割ったら、外に出てきてから組織に徹底的に詰められて″制裁″が加えられますので……」 さらに、驚くべき機能も付いているという。 「連絡がつかない、あるいは一定時間ログインしていないメンバーについては、警察に捕まった可能性や、飛んだ(組織を抜ける)疑いがあると判断され、本社からの遠隔操作でそいつが使っていた端末のアプリデータを消すこともできると聞かされていました」(同前) アプリ内の機能を確認していくと、勤怠管理や給与を閲覧できる画面もあった。 「現場のスカウトの勤務状況の把握などにも使われていて、アプリで出勤や退勤の打刻ができるようになっています。会社といっても事務所がどこかにあるわけではなく、毎月の給料は防犯カメラの無さそうな路上や公園に呼ばれて、手渡しで支給されます。スマホに入っているこのアプリで組織が繋がりすべての業務が完結するようになっていますが、現場のメンバーは幹部の本名はもちろん、普段どこにいるのかさえも知らされていません」(同前) 関係者によると、組織内にはITに強いメンバーが複数いて、アプリはそのメンバーを中心に1000万円以上の費用をかけて独自に開発したものだという。過去には警察にアプリの存在が知られるや、仕様を変えて作り直したこともあるというから、徹底している。捜査関係者はこう話す。 「単なる粗暴な組織ではないところがやっかいだ。まるで海外のマフィアや秘密結社のように、とにかく情報の漏洩防止を徹底していて、上層部までなかなかたどり着けない。従来のスカウト組織のようにちょっとヤンチャな感じのメンバーだけではなく、なかには偏差値の高い大学に在学中に誘われて組織に入り、幹部となっている人物も少なからずいる。高度な機能のアプリを組織内で作るなど、ITやデジタル分野、それに法律に詳しい人物を多く抱えているのもナチュラルの特徴だ。そうした、いわば頭脳として働いて組織に貢献している者も含めて摘発しないとだめだ」 我々の取材でも、メンバーには東京六大学やMARCHと呼ばれる有名大学の現役学生や卒業生が、多数在籍していることが確認された。 日本橋グループ* メディアや官僚、政界、ITなどの出身者で構成される新しい形の取材・情報チーム。国内外の機関と連携し、主に調査報道やドキュメンタリーの制作などを行っている 『FRIDAY』2025年4月4・11日合併号より 取材・文:日本橋グループ*

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加