母子殺害事件で死刑から無罪、国と大阪府への賠償は認めず 大阪地裁

殺人放火事件で一度は死刑となり、最高裁の差し戻し後に無罪となった元刑務官の男性(67)が国と大阪府に計約1億2400万円の国家賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁(三村憲吾裁判長)は18日、男性側の請求を棄却した。 男性は大阪市平野区のマンションで2002年、義理の息子の妻(当時28)とその長男(同1)を殺害し、火をつけたとして逮捕・起訴された。一貫して無罪を主張したが、マンション踊り場の共用灰皿にあった72本のたばこの吸い殻のうち1本のDNA型が男性と一致したことなどから「当日現場に行った」とされ、一審で無期懲役、二審で死刑とされた。 だが最高裁が10年、吸い殻はもともと妻の携帯灰皿に入っていたものの可能性もあるとして、残り71本に妻の吸い殻もなかったか調べるよう求めて審理を差し戻すと、府警が71本の入った段ボール箱を紛失していたことが判明。府警が気づいたのは03年の初公判より前で、検察も04年には把握していた。男性は17年に無罪が確定した。 訴訟の焦点は判例上、警察や検察が「通常求められる捜査」を怠ったと言えるかどうかだった。 男性側は、「無罪を証明する重要証拠」である吸い殻の紛失によって有罪判決が期待できないのに、漫然と捜査・公判を続けたのは違法だと主張した。 一方で府側は、鑑定した1本以外の吸い殻は「採取資料」であって証拠ではなく、「厳重に保管する義務があったとはいえない」と反論。国側も「紛失は検察官のあずかり知らないところで発生した」とし、「ほかの証拠を含めれば有罪判決があり得る状況だった」と主張していた。(大滝哲彰)

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