中国スパイの英国人への起訴取り下げ 労働党政権が対中配慮で介入か 野党が追及強化へ

【ロンドン=黒瀬悦成】英国で、中国のためにスパイ活動をしたとして起訴された英国人の男2人の起訴が取り下げられ、労働党のスターマー政権が中国との関係修復を図りたい思惑から検察当局に介入したとする批判が噴出している。スターマー首相は「取り下げは検察独自の判断だ」として疑惑の打消しを図るが、野党の保守党は「政権の対中弱腰は明白だ」としてさらに追及する構えだ。 ■首相は否定「検察の独自判断」 起訴が取り下げられたのは、保守系の英政策研究機関「チャイナ・リサーチ・グループ」の元部長、クリストファー・ベリー氏と、元国会議員付調査官のクリストファー・キャッシュ氏。ともに無罪を主張していた。 2人は2021年12月~23年2月にかけて、政府の対中政策に関する機微な情報を中国の情報機関員に渡していた疑いで、同年3月に逮捕された。英検察庁は24年4月、2人の行為が国家機密法に抵触するとして起訴した。 ところが、検察庁は初公判直前の今年9月15日に突然起訴を取り下げた。保守党は、パウエル首相補佐官(国家安全保障担当)など英政権の「対中融和派」が検察に圧力をかけたためだと主張。スターマー氏は「取り下げは検察の独自判断だ。閣僚らは失望している」と反論した。 これに対して検察庁は、政権が中国を「国家安全保障上の脅威」として正式に指定することを拒否したために犯罪の構成要件を満たすことができず、不起訴にせざるを得なかったと説明。スターマー氏への批判はさらに強まった。 ■政権交代で陳述内容に変化 英国の国家機密法は、直接または間接的に「敵」に有用となる可能性のある情報を収集・提供することを禁じている。「敵」という用語の解釈を巡っては、24年7月に英国内でロシアのために活動をしていたブルガリア人のスパイが有罪となった裁判で「現状で英国の安全保障の脅威となっている国」が該当するとの判断が示された。 検察庁はこれを根拠として政権に対し、中国を「国家安全保障上の脅威」と位置付ける証拠や証言の提出を数カ月間にわたって求めてきたが、提出されなかったとしている。

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