事件発生から約26年。名古屋市西区の主婦、高羽奈美子さん(当時32歳)を殺害したとして逮捕されたのは、高羽さんの夫、悟さん(69)の高校の同級生だった。安福久美子容疑者(69)=同市港区東海通5=が10月30日午後、捜査本部が置かれる愛知県警西署に出頭したことで、事件は大きく動き出した。 殺害された奈美子さんの夫の悟さんはチラシを配ったり、メディアの取材に応じたりして犯人につながる情報の提供を呼びかけてきた。 事件現場となったアパートの部屋は賃料を支払って現在まで借り続け、事件解決を願ってきた。室内の壁のカレンダーは、事件が起きた1999年11月のまま。事件の数年後には、玄関に犯人のものとみられる血痕が残っていたことが分かった。「いつか容疑者を立ち会わせ、現場検証をしたい」と語っていた。 悟さんは当時、「気持ちが落ち着くまでは(このままにしておこう)」と思って部屋を片づけず、実家に引っ越してからも時々、アパートに立ち寄った。部屋では一人、奈美子さんに思いをはせていたという。 家賃の負担は10年前の時点で1500万円に上っていた。当時の取材には「家賃を払い続け、犯人が捕まればいい。もし捕まらなかったら……」と複雑な胸中を明かしていた。 事件現場には2歳だった長男がいた。悟さんは、多忙な仕事の合間を縫って長男を遊びに連れて行くなど、子育てに力を入れた。「私たちが楽しむのが奈美子の望みだ」と思った。犯人に対しては「奈美子は殺されたけど、私たちは明るく前向きに生きていることが伝わればいい」と語っていた。 悟さんは被害者遺族の会「宙(そら)の会」の一員として、殺人事件などの時効制度廃止を求める活動に取り組んだ。2010年の法改正で時効が撤廃された時には「あと4年半で逃げ切れると思っていた犯人はがっかりしただろう。明日からまた犯人逮捕に向けて頑張りたい」と語っていた。 事件の情報を求め、繰り返し名古屋市の街頭に立った。今年2月にもチラシ入りのポケットティッシュを駅前で配り「どんなささいな情報でも、一件でも多く提供してほしい」と呼びかけた。【西本紗保美】