乱発する車両盗難、限界の捜査現場の“本音”「どうしても…」 弱点になりかねない警察組織の内情とは

全国で相次ぐ車両盗難に歯止めがかからず、被害の深刻度が増している。人生を懸けて手に入れ、個人や家族の思い出が詰まった愛車が突如盗まれてしまう。被害者の精神的ショックは計り知れない。警察が捜査に全力を挙げる一方で、捜査の迅速対応を求める声が上がっていることも確かだ。実は警察サイドはいくつかの悩みを抱えているという。「おつらい思いは分かりますし、被害者のためになんとかしてあげたい思いは山々なのですが……」。元警察官たちがリアルな胸中を証言した。(取材・文=吉原知也) 「警察官は正義感の塊です。悪い人はいません。しかしながら、日々業務に追われていて、対応が遅くなってしまうこともあります。とにかく、人的にも時間的にも、リソースが足りていないんです」 人手不足の“弱点”について苦々しい思いを打ち明けるのは、埼玉県警の元警察官で特殊部隊(銃器対策部隊)の経験があり、日本とベトナムに拠点を置いてソフトウェア開発などを手がけるIT企業・LandBridge株式会社の三森一輝社長だ。 警察が取り扱う事件は多種多様。事件の重大性や注目度、連続性や被害額によって、“優先順位”が変わっていく。窃盗事件として扱われる車両盗難にはこんな実情があるという。 「万引きを筆頭に、空き巣や忍び込みといった別件対応が毎日のように発生しているため、1つの事件を取り上げて対応することが難しい状態になっているのが実情です。車両盗難がその地域で頻発している場合はまた違いますが、それでも、担当するエリアが分かれている“所轄の壁”もありまして……。これは車両盗難に限らないですが、その時の状況によっては、すでに抱えている事件対応がいっぱいいっぱいで、どうしても後回しになってしまうこともあります」と打ち明ける。 三森社長が交番勤務時代、車両盗難の実況見分を手伝ったことが何回もあった。この場合、犯人逮捕などの際に担当者としてもう一度呼び出される流れになっているのに、そのまま1回切りというケースが多くあったという。 労働環境の改善は警察組織でも進められているが、残業はなかなか減らない。三森社長が殺人事件を現場で対応した際、発生当日は午前8時から翌日の深夜0時まで一睡もせずに捜査に当たったこともあった。日々の捜査案件を抱える中で、突発の事件対応が入ってくるのはしょっちゅう。車両盗難事件は、捜査開始からうまく犯人を捕まえられるケースで言うと、1事件に約3か月は時間を要する。余罪追及などでさらに時間をかけることもしばしば。こうした中で、次から次へと事件が舞い込んできてしまい、現場の捜査官は「限界」の状態にいるという。

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