身柄の不当な長期拘束が無辜(むこ)の命を奪った。検察、警察はもちろん、責任は裁判所にもある。人権侵害を引き起こした自覚と反省の上に立った真摯(しんし)な議論を求める。 大川原化工機の冤罪(えんざい)事件を受けて、最高裁は来年1月、保釈の判断について意見を交わす研究会を開く。 保釈は、起訴された被告の拘束を判決までの間、暫定的に解く制度だ。弁護側の請求を受けて、保証金の納付や住む場所の制限を条件に、裁判官が判断する。 今回の冤罪事件では、会社の元顧問が被告の立場で勾留中に病死した。研究会では問題点を洗い出し、保釈制度の趣旨にのっとった適正な運用につなげなければならない。 そもそも刑事訴訟法は、請求があれば原則、許可しなければならないと定める。却下できるのは、殺人などの重罪や、証拠を隠滅すると疑うに足る理由がある場合などに限られる。 特に留意したいのは、仮に証拠隠滅の恐れがあったとしても、健康面や経済上の不利益を考慮し、裁判官の職権で許可できる点だ。 にもかかわらず、実際の保釈率は一審段階で30%程度、否認の場合は20%台にとどまる。身柄を人質代わりにして自白を迫り、否認するほど拘束が長引く「人質司法」の弊害である。 大川原化工機を巡る冤罪事件は、その象徴と言える。 逮捕された社長ら3人は否認を続け、起訴が取り下げられるまでの期間は1年4カ月に及んだ。元顧問は胃がんが見つかっても保釈を認められず、望んだ医療を受けられないまま亡くなった。社長らも1年近く勾留された。 3人が保釈請求を重ねても裁判所は退け続けた。「口裏を合わせて証拠を隠滅する恐れがある」とする検察の言い分をうのみにしたからだ。 冤罪確定後、最高検は事件を検証し「保釈請求に反対しないなど柔軟な対応を取るべきだった」と反省した。全国の検察にも「被告の健康状態を的確に把握して検討する必要がある」と通知した。 しかし、最高裁は憲法が保障する「裁判官の独立」を盾に検証すらしていない。来年1月の研究会にしても参加者は裁判官のみで、非公開にする方針という。 独立と信頼を守るためにも頬かむりは許されない。 元顧問の遺族や学識者、弁護士ら、第三者を招いて意見を聞くべきだ。内輪で終わらせず、議論した内容は広く国民に公表する必要がある。 人質司法は日本の刑事司法制度が抱える深刻な問題である。うその自白を招く冤罪の温床であり、是正は急務だ。身柄の不当な拘束を防ぐための今回の議論を、人質司法からの脱却にまで結び付けなければならない。 裁判所は人権擁護の最後のとりでである。全ての裁判官がいま一度、自身の使命と責任を銘記してほしい。