〈On-U Sound〉率いるエイドリアン・シャーウッド主催のイベント・シリーズ〈DUB SESSIONS〉が、20周年の節目に東京、愛知・名古屋、大阪で開催するジャパン・ツアー〈ADRIAN SHERWOOD presents DUB SESSIONS 20th ANNIVERSARY〉が、11月19日の東京公演よりスタートしました。 アニバーサリーを祝う今回は、今年8月に約13年ぶりとなるソロ・アルバム『ザ・コラプス・オブ・エブリシング』をリリースしたエイドリアン・シャーウッドに加え、デニス・ボーヴェル、マッド・プロフェッサーの3巨頭が集結。その豪華なパフォーマンスの模様を伝えるレポートが到着しています。 なお、同イベントは、11月20日(木)名古屋・Club Quattro、11月21日(金)大阪・Gorilla Hallと続きます。また、会場で完売したツアー・グッズの一部受注生産も開始に。詳細は、BEATINKの公式サイトをご確認ください。 [ライヴ・レポート] 〈On-U Sound〉を率いるエイドリアン・シャーウッドによる『Adrian Sherwood Presents Dub Session』のシリーズ。今年はなんと20周年記念なのだ。2006年はリー・ペリー、2007年はザ・スリッツを迎えて開催された伝説のイヴェントで、ぼくも通い続けている。2023年は『A Trip To Bolgatanga』を出したアフリカン・ヘッド・チャージのボンジョ・アイ、2024年は『Midnight Rocker』と『Midnight Scorchers』を出したホレス・アンディを迎えて開催され素晴らしい内容だった。今年は昨夜、東京・EXシアター六本木で開催された。エイドリアン・シャーウッドがダグ・ウィンビッシュを含む3人のバンドとともに新作ソロアルバム『The Collapse Of Everything』を引っさげてのライヴをメインに、デニス・ボーヴェル、マッド・プロフェッサーによるパフォーマンスを組み合わせたもので、まさに、UKのダブマスターのそろい踏みという贅沢なイヴェントとなった。 まずは、デニス・ボーヴェルによるDJ。しかしこれがただのDJではなく、ジャー・シャカのように、ひとりで音源を出しながら歌っていくという、ラバダブ・スタイルのパフォーマンスだった。デニス・ボーヴェルは1985年にリントン・クウェシ・ジョンソンと初来日したときから何度も見てきたが、このようなDJを見たのは初めてだ。 デニス・ボーヴェルといえば、マトゥンビでの活動、リントン・クウェシ・ジョンソンとの活動、ザ・ポップ・グループ、ザ・スリッツのプロデュースなど70年代後半以後のキャリア、80年代の数々のダブ・アルバムの制作が有名だが、じつは70年代前半の段階で、自身のサウンド・システム、サファラーズ・ハイファイ(Sufferers Hi-Fi)を稼働させていたことが、UKにおけるレゲエの歴史を築く重要な役割を果たしていた。 74年10月のある日、デニス・ボーヴェルのサファラーズ・ハイファイを含む3つのサウンド・システムがサウンド・クラッシュをやっていたとき、警察が踏み込んできて、デニス・ボーヴェルは、「ポリ公を殺れ!(Get the boys in blue)」と言ったという罪で逮捕、投獄された。それは完全にでっちあげで、人種差別主義に基づく暴挙だった。6か月後に再審請求が行なわれて無実を勝ち取って刑務所を出ることができたが、誰も責任を取らず、賠償請求のやりようもなかった。その事件が起こった翌年、75年にルイーザ・マークスの「Caught You In A Lie」という曲がリリースされた。デニス・ボーヴェルが深く関わって作られたこの曲が、最初のラヴァーズ・ロックとなった。 サファラーズ・ハイファイのライヴ音源は残っていないが、昨夜のデニス・ボーヴェルのDJは、当時の雰囲気を継承しているのではないかと思わずにいられなかった。デニス・ボーヴェルが手がけたラヴァーズ・ロックの最大のヒット曲、ジャネット・ケイの「Silly Games」(79年)のトラックを使って、デニス・ボーヴェルが歌ったところは感動した。サウンド・システムを70年代のUKの警察は弾圧していた。そういう社会背景とラヴァーズ・ロックは結びついていたという歴史が表現されていると思った。 続いて〈Ariwa Sounds〉を率いるマッド・プロフェッサー。見るのは1992年にサンドラ・クロス、マッカ・Bと来日したアリワ・ショーケースのライヴのとき以来。マッド・プロフェッサー、そしてアリワといえば、メロウなラヴァーズ・ロックというイメージが強いと思うが、マッド・プロフェッサーはその既存のイメージを壊して新たな境地を見せようと今なお挑戦していた。 超絶ミキシング・テクニックを武器にスペシャル・ライヴ・ダブショウを披露、と宣伝されていたが、まさに。ボブ・マーリーやマイケル・ジャクソンの大ネタを使って、その場で大胆にダブ・ミックスしていく破壊と創造の表現には誰もが圧倒されるだろう。 ステージ上のミキサー卓には、シスター・ナンシーの新作『Armageddon』のLPジャケットが置かれていた。シスター・ナンシーは82年に『One two』でデビューした。ぼくはこのアルバムをリアルタイムでジャマイカで買って衝撃を受けた。そのシスター・ナンシーの24年ぶりの新作が最近アリワから出ていた。大ネタのダブ・ミックスの後、『Armageddon』からの曲に続いて、『One two』に収録されている「Bam Bam」をかけた。そこから「Bam Bam」のリディムを使った曲を繋げていくというレゲエの歴史を紐解くような展開も素晴らしかった。 エイドリアン・シャーウッドは、ステージ中央に設置されたミキシング卓を操作して、ダグ・ウィンビッシュ(ベース)、マーク・バンドラ(Mark Bandola ギター、キーボード)、アレックス・ホワイト(Alex White サックス、フルート)とライブを行なった。 1曲めは、エイドリアン・シャーウッドが結成したダブ・バンド、ダブ・シンジケートの曲「Wadada (Means Love)」(91年)からスタート。いつものようにバックに投影されるビジュアルまでカッコ良い。続いて新作『The Collapse Of Everything』からのタイトル曲。ここで「すべての崩壊」という直訳された手書きの日本語が投影された。 エイドリアン・シャーウッドは、83年に盟友プリンス・ファーライがジャマイカで射殺されてしまい、失意のあまりしばらくレゲエから離れた時期があった。そのときニューヨークで、スキップ・マクドナルド、ダグ・ウィンビッシュ、キース・ルブランと知り合ってOn-Uに招き入れた。彼ら3人は、グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴの「The Message」(82年)をはじめとする初期ヒップホップのレコードの多くで演奏していた。 ダグ・ウィンビッシュは、5弦ベースを弾き、ときにリード・ギターのソロみたいな演奏をしていた。 演奏した曲の半分は『The Collapse Of Everything』からの曲で、完全に現在進行形のアーティストだ。この新作のタイトルには、23年に亡くなったマーク・スチュワートが残した未発表曲の歌詞の中に隠されているという。 エイドリアン・シャーウッドは、死者が残した素材をいつも大切に扱う。On-Uファミリーのドラマーでもあったスタイル・スコットが、リー・ペリーの『Rainford』(19年)のためのレコーディングをロンドンで行なった直後、14年10月9日にジャマイカで殺害されてしまったが、そのとき録った音源の一部を、ホレス・アンディの『Midnight Rocker』(22年)でも使った。そういう死者への眼差しが、近年のエイドリアン・シャーウッドのダブのなかに独特のトーンをもたらしている気がする。 『The Collapse Of Everything』からの曲「Hiroshima Dub Match」は、アルバムのタイトルから原爆関連のメッセージがあるかと思いきや、日本の映画『仁義なき戦い』シリーズのひとつ『広島死闘篇(Hiroshima Death Match)』が由来だそう。 最後に、エイドリアン・シャーウッドがプロデュースしたオーディオ・アクティヴの曲「Weed Specialist」(97年)を使って、デニス・ボーヴェル、マッド・プロフェッサー、エイドリアン・シャーウッドが揃ってステージでパフォーマンスした。ここではもう感涙するしかなかった。 Text by 石田昌隆 Photo by Toshiaki Horitsu