ファミコン版「ポートピア連続殺人事件」が発売40周年! 部下のヤスとともに難事件の解決を目指す、ファミコン初の本格ミステリーAVGを再捜査

1985年11月29日にエニックス(現:スクウェア・エニックス)が発売したファミリーコンピュータ用ソフト「ポートピア連続殺人事件」が、本日で40周年を迎えた。 本作は、プレイヤーが刑事(ボス)となり、部下である「ヤス」こと真野康彦とともに、殺人事件の犯人を探し出すことを目的とする、1983年に発売されたPC用ソフトを移植したアドベンチャーゲームだ。シナリオを書いたのは、後に「ドラゴンクエスト」を手掛けることになる堀井雄二氏で、ファミコンでは初となるコマンド選択式を採用した作品として、本作はあまりにも有名だ。 以下、筆者が本作を、かつコマンド選択式のアドベンチャーゲームを生まれて初めて遊んだ当時の体験を元に、本作ならではの面白さを改めて振り返ってみた。 ■ 事件現場の捜査、怪しい人物の尋問の面白さに開眼 筆者が本作の存在を初めて知ったのは、おそらくファミコン専門誌「ファミリーコンピュータマガジン」に掲載された新作ソフトの紹介記事だったとおぼろげに記憶している。 そのビジュアルは、今までに自身が遊んできた、どのアーケードゲームともファミコンソフトとも一線も二線を画していた。殺人事件を解決するというゲームの目的も、当時の筆者にとっては前代未聞だったこともあり、記事を読んでも具体的に何が楽しいゲームなのかがよくわからなかった。しかも、本作の値段は5,500円と高かったこともあり、当初は特に興味を持たなかった。 本作が発売された直後、ちょうどソフトを買ったばかりの友人宅に遊びに行く機会があり、遊び方を手取り足取り教えてもらいながら遊び始めた。「ばしょいどう」「ひとにきけ」「たいほしろ」など、多数のコマンドの中から実行したいものを十字キーとボタンで選び、青いスーツ姿でこちらを向いているヤスに指示を出しながら遊ぶのだという。 コマンドを実行すると、「パラパラ……」という効果音とともに1文字ずつ、ヤスからさまざまな返事や状況報告が表示される。各種コマンドを実行するたびに、ヤスはどんな回答をするのかというワクワク感と、まるでゲームの「中の人」と本当に会話をしているかのような体験は実に新鮮だった。 マニュアルを読むと、事件の発端は、ローンやまきんの社長である山川耕造が自宅の屋敷で殺害されたことらしい。早速、耕造の屋敷に移動し、テレビの刑事ドラマさながらの生々しい現場で「なにかしらべろ」や「すいりしろ」などのコマンドで死体や備品などを調べると、使用した凶器や死因、死亡推定時刻などがどんどん判明し、まるで自分が刑事になったかのような気分にさせてくれた。 捜査本部に移動すると、こちらも刑事ドラマでよく見掛ける取調室に画面が切り替わった。 部屋には誰もいないのでどうするのかと思ったら、「よべ」コマンドを選択したら数名の容疑者の名前が表示された。容疑者たちを片っ端から呼び出し、耕造が殺された日のアリバイや、ほかの人物についての情報を聞きまくったが、殺人事件の犯人はいったい誰なのかが全然わからなかった。 ならば、無理矢理にでも白状させようと、「たたけ」コマンドを利用して「西部警察」や「太陽にほえろ」よろしく、「ボカ、カス!」と実力行使に出てみた。すると、耕造の屋敷の守衛だった小宮六助が口を割り、事件当日の様子を詳細に話してくれた。小宮にはちょっと気の毒だったが、おかげでアドベンチャーゲームならではの快感、成功体験を初めて得ることができ、「犯人を探し出してみたい!」とモチベーションが大きく沸き上がった。 ■ 恐怖あり涙あり、そして笑いもあり。未解決でも大いに楽しめたヤスとの二人三脚 筆者が友人たちと「こうしよう」「ああしよう」と相談をしながら捜査を進め、やがて事件の真犯人ではないものの、耕造の甥っ子である俊之を麻薬取引の罪で逮捕に初めて成功したときも本当に嬉しかった。 俊之の部屋に置かれたメモには「こめいちご」と書かれているが、この謎めいた言葉は友人によると電話番号を意味しているという。すでに「こめいちご」の謎を解明していた友人は、「でんわかけろ」コマンドを選択後、その番号にかけると、謎の男とつながる場面を披露してくれた。 「こめいちご」の意味を友人から教えてもらった筆者は、「ナルホド!」と目からウロコが落ちた。直後、謎の男から受け取った包を調べると、中身は麻薬であったことが発覚。捜査本部で俊之を呼び出し、早速「なにかみせろ」コマンドで包を見せると、それまでの供述がウソばっかりであったことが判明し、晴れて逮捕に成功した。 俊之は逮捕できたものの、その後は友人たちも、当然ながら新米刑事の筆者も捜査が進展せず、結局自力で事件の完全解決には至らなかった。 しかし、本作には本編の進行とはまったく関係のない、思わず笑ってしまうギャグが随所に仕込まれていたことで、筆者も友人たちも本作を早々に投げ出すことなく、しばらくの間楽しめたのではないかと、今振り返ると改めて思う。 最初にみんなで大笑いしたのが、スタート地点の花隈町で「なにかしらべろ」コマンドを選択後、虫眼鏡カーソルを太陽に合わせると、ヤスに「虫眼鏡で太陽を見てはいけないって学校で習ったでしょ」などと怒られてしまうシーン。殺人事件を捜査するシリアスな世界とはあまりにも大きなギャップがある、そんなセリフがまさか入っているとは予想だにしなかったので実におかしかった。 ほかにも、人力で運ぶのは不可能な物を取れと指示したり、捜査本部で女性の顔を調べたり、服を取れなどと理不尽な命令を出したりすることでも、ヤスがユーモラスなセリフを次々と返してくれるのも面白かった。 筆者が「もうムリ!」と本作を投げ出し、事件が迷宮入りする致命的な要因となったのが、耕造の自宅に隠された地下迷路の難しさだった。 地下迷路の入口は、ド素人の筆者でも比較的簡単に見付けられたが、いざ足を踏み入れるとすぐに迷子になってしまった。なぜなら、地下通路はコマンド選択ではなく、十字キーの上下左右の入力で移動する仕組みだったからである。 当時の筆者は、3Dダンジョンを探索するPC用の有名RPG「ウィザードリィ」も「ザ・ブラックオニキス」も全然知らないナイコン少年であり、友人たちの中にもこれらのゲームが遊べるPCを誰も持っていなかった。なので、右または左を押したときは向きを変えるだけで、その場から1歩も移動していないという、3Dマップ移動の基本の「キ」を知らず、左右に1回入力するごとに1歩移動するものと勘違いしていたのだ。 実は、本作のマニュアルには「右、左、下は、あくまでも方向を変えるだけのボタンです。進むことはできません」などと注釈が書かれている。だが、そこは子供の習性(?)で、筆者も友人たちもこの記述を完全に見落としており、方眼紙を利用したマッピングの方法もまだ知らなかったこともあり、地下通路に毎回入るたびに解決の糸口がつかめず途方に暮れていた。 しばらく後になって、「週刊少年ジャンプ」(1986年1月8日号)の「ファミコン神拳」コーナーに、本作の地下通路のマップと攻略法が詳細に書かれた記事が掲載された。マップのおかげで、現在地点が常時把握できるようになったことで、やっと操作方法も理解できるようになったと記憶している。 事件は解決できなかったが、筆者は3Dマップの移動方法を地下通路で学んだおかげで、後に「ウィザードリィ」をはじめ「がんばれゴエモンからくり道中」や「ウルティマIV」などを何の違和感もなく遊べるようになったことでも、本作は思い出深い作品となった。 「ファミコン神拳」の記事を読んでから、さらにしばらく経ったある日。本作のエンディング到達に成功した友人から、初めて事件解決の場面を実演してもらった。 「ポートピア」の名前のとおり、本作は神戸を中心とした関西が舞台だが、捜査を進めていくと淡路島(洲本)や京都にも足を運べるようになって新証言が得られたり、新たな殺人事件の現場にも遭遇したりする。さらには地下通路に隠し部屋があること、そして事件の意外な真犯人の正体に衝撃を受けたことも、今なお鮮明に記憶している。 ところで、この複雑怪奇な事件の真犯人とは、いったい誰なのか? ネット社会となって久しい現代にあって、この時世にはもうバレバレだろうが、それでもここで明言するのは野暮なので、控えさせていただこう。 2023年には、本作をベースにAIを利用した自然言語処理を学習・体験するソフト、その名も「SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」がSteamで無料配信されたのが記憶に新しい。 しかし、本作のオリジナル版の内容を忠実に再現した移植版は、久しく発売、または配信されていない。現行のプラットフォームでも遊べる移植版、あるいは昨今発売された「ドラクエ」初期シリーズと同様に、現代調にリメイクされた本作のリリースもぜひお願いしたいものだ。 copyright(C) SQUARE ENIX

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