「帰りたい」と泣いた孫、「まさか性搾取とは」と祖母 少女人身売買

東京都内の個室マッサージ店で、当時12歳のタイ国籍の少女が違法に働かされていた事件。6月まで少女と同居していた祖母(65)は「帰ってきたら、まずは抱きしめたい」と話す。しかし、唯一の稼ぎ手だった母親(29)は台湾で逮捕され、昨年日本で生まれた乳児の存在もあり、祖母の不安は募る一方だ。 ◇母親は昨年日本で出産 「聞きたいことは山ほどある。どんな暮らしをして、何を食べていたのか……ずっと心配していた」。親戚の女性(50)がそう話すと、祖母も隣で何度も小さくうなずいた。 2人によると、母親は2022年ごろから日本で「マッサージ」の仕事を始め、娘2人を預かる祖父母に月2000~3000バーツ(約1万~1万5000円)程度を送金していた。ところが、昨年春ごろに突然、母親から「日本で妊娠して赤ちゃんを産む」と告げられ、送金が滞るようになったという。 母親は昨年12月下旬、群馬県内の産婦人科で男児を出産した記録が残っている。今年2月には都内のタイ大使館を訪れ、出生届を提出した。出産後は茨城県に住んでいたとみられるが、「書類手続きが終わらない」として男児を知人女性に預け、一人でタイに帰国した。 ◇「日本へ迎えに行く」と言い残し 6月、母親は「日本に子供を迎えに行く」と言い、少女を連れて行った。数週間後に帰宅したのは母親だけで、男児を抱いていた。少女の行方を尋ねると、「航空券が買えず、マッサージ店で働く友人に預けた」と説明した。 ほどなくして母親は男児を残し、「娘の帰国費用を稼ぐため」と台湾へ向かった。その後、少女から祖母に国際電話があり、「家に帰りたい。学校で勉強したい」と泣きじゃくっていた。通話は途中で切れ、かけ直してもつながらなかった。祖母はスマートフォンを持っておらず、通信アプリも使えなかった。「心配はしていたが、まさか性搾取の被害に遭っていたとは思いもしなかった」と振り返る。 祖母は「娘を信じている」と語る。「あれほど少女を可愛がっていたのに、性的な仕事を無理やりさせるはずがない。日本で何か想定外のことが起きたのだと思いたい」。母子そろって無事に帰ってくることを願っている。 ◇知人に誘われて日本へ 母親は14歳のころ、20歳以上年上の建設作業員の男性と出会い、少女を出産。その後、妹も生まれた。父親は約7年前、アルコール依存症などが原因で亡くなり、それ以来母親が家族を養ってきた。娘2人を祖父母に託し、年に数回帰省する生活が続いていた。 関係者によると、母親はタイ国内の建設現場やマッサージ店で働くうち、知人に誘われて日本など国外へ出稼ぎに行くようになり、売春にも手を染めるようになったとみられる。 少女自身は友人とサッカーをするのが好きで、伝統舞踊も楽しむ活発な子だった。 母親は3人きょうだいの次女で、きょうだいの中では唯一、毎月仕送りを続け、旧正月には土産を手に帰省していた。「優しい子だった。自分から話す準備ができるまでは、今回のことを私から聞かない」と祖母は語る。 ◇「父親は日本人かも…」 だが、妊娠後は働けなくなり、仕送りは途絶えた。現在、一家の収入は祖父母が受け取る月1200バーツ(約6000円)の高齢者手当のみ。日本から連れ帰った生後11カ月の男児のミルク代も重くのしかかるという。母親は男児の父親について一切語らず、出生届の父親欄も空白のままだ。祖母らは男児の容姿から「日本人の可能性もある」と話している。 事件後、祖父母一家を支援してきた「パウィーナ・ホンサグン子供女性財団」によると、少女は日本側での手続きが終わり次第帰国し、タイ政府の保護を受ける見通しだ。その後、家族との面会も可能になるとみられる。 一方、乳児が加わったことで、一家の経済状況は一段と厳しさを増す。財団のパウィーナ代表は「男児の父親がどこかにいるなら、養育責任を果たすべきだ」と指摘した。今後は、少女の妹らが安心して暮らせるよう、経済的なサポートをする方針だという。【バンコク国本愛】

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