韓国の進歩(革新)派と保守派には共通した考え方がある。韓国の社会・経済・政治、朝鮮半島の運命は米国によって決まるという「米国決定論」だ。 それによると、韓国は米国にとって「お釈迦様の手のひらの上の孫悟空」のような存在にすぎない。そのため、保守派は「何が何でも米国と歩調を合わせなければならない」と主張し、革新派は「何としても米国から独り立ちしなければならない」と言う。いずれにせよ、両方とも「米国決定論」といえる。 12・3不法戒厳の後に中国のスパイが選挙管理委員会の研修院で選挙不正をして米軍に逮捕され沖縄に押送されたとか、ドナルド・トランプ大統領が空母を送って尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領を助けに来るなどという噂が、元高官たちや(当時の)政権与党の一部の口からも出てきた。韓国内の米国決定論が精神疾患のレベルに至ったことを示している。 韓国の現代史を振り返ってみると、米国の存在が絶対的だったことは否定できない。第二次世界大戦後、米国が朝鮮半島の南側に進駐したからこそ、「大韓民国」が成り立った。米国の撤退と介入のために朝鮮戦争が勃発し、休戦に至った。冷戦時代、米国の封鎖と同盟復興政策が韓国の経済開発の基盤になった。米国がいなければ、きっと現在の韓国は存在しなかっただろう。 ところが今、現在の韓国を可能にした米国が主導した国際秩序が傾いている。第2次トランプ政権発足後、米国は「覇権国家」としての役割を放棄している。覇権国家というものは、自らが主導する国際秩序で責務を果たさなければならない。自国市場を開放し、同盟を保護するなどの役割だ。トランプ大統領率いる今の米国は、むしろ同盟国に防衛費をさらに負担するよう強要することを通り越して、関税を武器に巨額の投資を求めるなど、現金を巻き上げることもはばからない。 そして今、米国はアメリカ大陸へと退却しようとしている。今月4日に発表されたトランプ政権の国家安保戦略(NSS)は、西半球を米国の対外戦略の最優先対象に位置付けることを掲げ、「トランプによるモンロー主義の継承」を表明した。第1次トランプ政権の国家安保戦略では、中国とロシアを従来の国際秩序の変更を図る「修正主義勢力」とし、彼らを止めるためにインド太平洋が米国の死活を賭けた利益地帯になると強調した。ところが、今回は中ロに関するそのような言及は姿を消した。 トランプ大統領率いる米国は、ロシアの持ち分を認め、ウクライナ戦争を終結するよう欧州に強要している。日本の高市早苗首相の「台湾有事」発言をめぐり中日が対立しているが、トランプ大統領は日本に中国を刺激しないよう助言している。一方、自分たちは軍事力を動員してベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を転覆させようとするなど、中南米国家の手綱を締めている。 トランプ大統領率いる米国は、世界を網羅する覇権国家ではなく、アメリカ大陸を勢力圏とする列強となろうとしている。一方、他の地域では他の列強の勢力圏を認めることを示唆した。中ロが主張する「多極化」の世界に進むか、勢力圏を分割する19世紀の帝国主義列強秩序に進むかはまだ見通しが立たない。だが、ウクライナ、台湾、ベネズエラ周辺を見る限り、米中ロが今や勢力圏をめぐり談合をしているのではという疑念を抱かせる。 確かなことがある。国際政治の高尚な用語を借りると、米国は今や「オフショア・バランシング」を駆使するしかない。米国が直接介入せず、同盟を前面に立てて各地域の勢力均衡を図る戦略だ。トランプ大統領の米国は自ら退却しながら、同盟を(防衛費分担や関税などで)「むしり取り」、(勢力均衡の)前面に立たせている。逆説的にこれが同盟に対する依存を拡大している。韓日に巨額の投資を強要し、「MASGA(米国造船業を再び偉大に)」プロジェクトを通じて韓国に船の建造を要請し、原子力潜水艦の建造を認めるなどの動きがこれに当たる。 韓国の成長は、米国が主導した国際秩序という条件だけでなく、主体的な意志と能力があったから可能だった。背景となった国際秩序が蒸発した状況では、主体的意志と能力がさらに重要になる。 巨額の投資、MASGA、原潜建造事業の結果は、韓国がどのように対処するかによって変わる。巨額の投資が韓国の国益に合わなければ、あらゆる手段を動員してトランプ退任後まで執行を先送りしなければならず、そうすることもできる。原潜カードも一旦置いておき、必要に応じて切ることも切らないこともできる。 韓国政府内には依然として米国に先に報告し、認めてもらうことで栄達を図ろうとする官僚たちがいる。北朝鮮の核問題などを先に米国と協議すべきかどうかをめぐり、「自主派-同盟派」の論争が激しく展開されている。だが、何が何でも米国と歩調を合わせなければならないという保守右派の米国決定論は、効力を失って久しい。米国とのあらゆる取引・交渉は米国従属を深化させるもの、という進歩派の米国決定論も同じだ。東アジアで起きている勢力の変化を見る限り、進歩派も運命論的な米国決定論から脱却しなければならない。 チョン・ウィギル | 国際部先任記者 (お問い合わせ [email protected] )