【やる気スイッチわいせつ裁判】「すべてが苦しい時間に」法廷で被害少女の現状を語った母親の“怒り”

「(娘は)信頼していた大人、頼っていいはずの大人から、自分の優しさや純粋さ、一生懸命さを完全に逆手に取られました。教師と生徒という関係につけ込まれ、長期にわたり密室に近い状態での性的嫌がらせを我慢の限界まで耐え抜いたのです」 12月23日、東京地裁で開かれた石田親一被告(45)の第2回公判。信頼していた塾講師から性被害を受けた女子中学生Aさん(当時15歳)の母親は、証言台に座ると、涙ながらに怒りをあらわにした。 株式会社『やる気スイッチグループ』が運営する個別指導の学習塾『スクールIE』の元教室長・石田被告がAさんに対する不同意わいせつの疑いで逮捕されたのは、’25年9月14日のことだった。この学習塾は生徒の横に講師が座って指導するため、机と机の間に仕切りがあり、周りからは見えにくい環境になっていたという。 石田被告は、その閉鎖的な空間を悪用し、今年の2月ごろから指導中にAさんの太ももを触るようになり、3月ごろには服の中に手を入れ、下着の上から胸を触っていたのだという。石田被告は不同意わいせつの罪で起訴されたが、これは下着の上からAさんの胸を触ったことについてのもので、太ももを触った件は罪に問われていない。 公判のなかで石田被告は、「指導中に偶然Aさんの胸に腕が当たり、Aさんが何の反応もしなかったことから、次は手のひらで触りたいと思うようになった」と犯行の動機を述べていた。 さらに石田被告は、今年1月に「誕生日プレゼントを渡す」と呼び出した女子中学生Bさん(当時13歳)に、塾校舎内で正面から手を回して抱きついたとして、10月2日に不同意わいせつの容疑で再逮捕されている。 Bさんが中学生になったころから、指導中に太ももを触るようになったという。しかし、石田被告が取り調べで「(Bさんに抱きついたのは)性的な目的があったのではなく、感情が高まり、親愛の情から抱きしめたいと思った」と主張したために、不同意わいせつではなく、暴行の罪で起訴されることとなった。 ◆被害少女たちは誰にも相談できず悩んだ 石田被告は、AさんとBさんがともに小学生のときから指導していたため、本人だけではなく、家族からも信頼されていたという。その信頼につけ込んだ犯罪だけに、事件後、被害者の2人は誰にも相談できず悩んだことが、供述調書につづられていた。 〈(石田被告は)私が気軽に相談できる大人で、私も先生のことを優しい先生だと信頼していました。ですので、私自身、先生が私の太ももや胸を触ってくる事実を受け入れたくなかったという気持ちもありました。このように、私は頭の中でいろいろなことを考えてしまって、誰かに相談することがなかなかできずにいました〉(Aさんの供述調書) 〈両親にこのことを話せば悲しませると思ったことや、私自身、両親には話しづらかったことから、話せずにいました〉(Bさんの供述調書) Aさんはカウンセリングの先生に相談して、家族にも言えない悩みを聞いてもらっていたが、石田被告からの性被害を打ち明けるまでに多くの時間を必要としたという。 第2回公判では、論告弁論に先立ち、Aさんの母親が意見陳述を行った。 被告人席に座る石田被告に、一瞬、にらみつけるような視線を送ると、Aさんの母親は冒頭のように、石田被告への怒りをあらわにしたのだった。 ◆自分を卑下する言葉ばかり口にするように Aさんの母親によると、石田被告が逮捕されたことで緊張の糸が切れたのか、Aさんの体調はむしろ悪くなり、医療機関を頼るようになったという。Aさんの母親は、涙ながらに、いまのAさんの状態を訴えた。 「学校や家族との時間などの日常生活、大好きな習い事、友達との楽しい時間など、その多くが奪われ、すべてが苦しい時間、あるいはそれを克服するしんどい時間へと変わってしまいました」 そして石田被告のことを信頼し、Aさんの被害に気づけなかった自分を責めるように、号泣しながらこう述べた。 「長期にわたって娘に苦痛を与えた場所を選択して、推薦してしまった罪悪感に苦しんでいます。どうして被告人の言うことを信じてしまったのでしょう。娘の隠された気持ちに気づいてあげられなかったのでしょうか」 かっては自分を信頼してくれていたAさんの母親の怒りに気圧されたのか、石田被告はじっとうつむき、証言台のほうを見ることはなかった。 その後、論告弁論が行われた。 検察官は、「個人指導塾の教室長という立場にあったにもかかわらず、各被害者が嫌がる様子をみせないことを逆手に取って、継続的に体を触ろうとするなど言語道断」「Bさんに抱き着いた行為は親愛の情だと主張していますが、性的な意図があるのは明らかであり、そのように自己の性癖を矮小化しようとする姿勢に反省の態度はまったく見られない」などと述べ、「規範意識を欠き、真摯な反省の態度も見られない被告人が再犯に及ぶ可能性は十分にある」として「2年6カ月」を求刑した。 一方、弁護人は、「(Aさんへの)わいせつ行為は衣類の上から胸に手を当てたもので、素肌に直に触れたのではない。(Bさんへの)暴行行為も被害者の承諾なく抱き着いたというもので、拒絶の反応に気づいて自らやめているため、同種の犯行態様に比較すれば、軽微と評価されるべき」などと主張。 「長期間、身柄を拘束され、自分の愚かな行為により多方面に多大な迷惑をかけたことを深く反省し、二度と子どもを教える職には就かないと誓約している」などとして、「執行猶予付きの判決が相当」と述べたのだった。 Aさんの母親によると、最近のAさんは「疲れた」「何もできない。みんなの迷惑にしかならないから消えたい」など、自分を卑下する言葉ばかり口にしているという。信頼していた「先生」から何度も性被害を受けたことは、Aさんの自己肯定感を著しく下げる結果になったのではないだろうか。 Aさんの母親は意見陳述で、今回Aさんが石田被告からの性被害を訴え出たことは、「娘が自分の人生を取り戻す闘い」なのだと強調していた。そして、ときには嗚咽し、ときには言葉に詰まりながらも、こう裁判官に訴えたのだった。 「娘が『自分には生きていく価値がある』と胸を晴れるようになるためには、娘の行動に大きな意味があったと娘自身が感じることができる、しっかりとした裁きを下していただけることが必要だと思っています」 母親の悲痛な叫びは、裁判官の耳にどれくらい届くのだろうか。 判決は1月8日に言い渡される予定だ。 取材・文:中平良

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