日本有数の歓楽街として知られる新宿・歌舞伎町。ここで3000件以上の風俗トラブルを担当し、ナイトビジネスにまつわる依頼を数多く解決してきたのが、「グラディアトル法律事務所」の弁護士・若林 翔さんです。著書『歌舞伎町弁護士』では、これまでに若林さんが関わってきた印象的な事案や人物について明かすとともに、歌舞伎町の未来にまで思いを巡らせた一冊です。 「今では、歌舞伎町はもちろん、全国のナイトビジネス経営者の顧問弁護士として関連業務を扱っている。経営者たち、ホスト、キャバ嬢、彼らの客。ヤクザや半グレ、その被害者。シングルマザーに外国人……ナイトビジネスに足を踏み入れた、すべての人々が私のクライアントだ」(本書より) たとえば第一章「可哀相な男たち」に登場するのは、歌舞伎町のガールズバーに通ううちに、キャストの女性とその恋人をはじめとする詐欺師集団に、全財産である1億5000万円を奪われたという男性の話です。 最初は成功報酬を見込んで引き受けた若林さんですが、「不動産はおろか預金まで根こそぎむしられていたことに、純粋な怒りが湧き上がってきた」(同書より)と振り返ります。最終的に、若林さんが警察に提出した告訴状が受理され、詐欺師の男女が示談書にサインし、被害者男性のもとには9000万円が戻ってきたといいます。 他にも、性風俗店で店側とトラブルになった官僚、契約違反を理由に200万円の和解書にサインしてしまった女性向け風俗店セラピスト、何度も逮捕されて留置場に入れられているスカウトマンなど、多様な事例を紹介。実在する人物のプライバシーに配慮し、仮名を用いたり一部フィクションの要素を加えたりして書かれています。夜の世界に縁のない人にとっても興味深い内容です。 さらに一章を割いて語られているのが、若林さんが顧問弁護士を務めるデリヘルの創業者である浅野謙信さんの半生です。有名私大を中退後、医学部に再入学したものの、歌舞伎町で性風俗産業のベンチャー社長となった浅野さん。その波乱万丈なストーリーを追いながら、若林さんは「『世間の底辺』、『誰でもできる』としばしば蔑まれる性風俗産業は、誰にも真似できない人生を送ってきた人々によって支えられているのだ」(同書より)とナイトビジネス業界について記します。最終章では、2025年内改正の風営法や職業安定法、売春防止法についても解説しています。 「逞しく、知恵を絞って、立ちはだかる困難を明るく乗り越えていくナイトビジネスの経営者の皆さんが好きだ。彼らの発展と健全化のため、少しでも役に立てるような弁護士であり続けたい」(本書より) そう語る若林さんの視点を通して、ナイトビジネスの実情を描き出した本書は、他に代えがたい異色の一冊です。 [文・鷺ノ宮やよい]