ルミアナ・ジャハンジル イギリス北西部担当記者 イギリス王室のアンドリュー・マウントバッテン=ウィンザー元王子は公務中の不正行為の疑いで19日朝に逮捕された後、約11時間後に釈放された。警察施設を出る車内の後部座席で、目を見開き、口も軽く開いた表情で、背もたれに寄りかかっている写真は、世界中の新聞やウェブサイトに掲載された。 この写真を撮影したのはロイター通信のカメラマン、フィル・ノーブル記者だ。リヴァプール出身の記者は、この瞬間を捉えられたのは「判断よりも運」のおかげだったと言う。 国王の弟が警察に逮捕されたと速報が伝わると、ノーブル記者はマンチェスターの自宅を出た。南へ6時間車を走らせ、元王子が住むノーフォークへ向かった。 ノーブル記者は通常、さまざまなニュースの写真を撮る。今週初めには洪水やサッカーの試合を取材していた。 イギリスの主要王族が逮捕されるという現代では初の大事態について、記者は「典型的な昔ながらの取材活動」の1日だったと話した。「誰かが逮捕された。居場所を探すには、誰に電話すればいい?」といういつもながらの思考に沿って、動いたのだという。 「あれは自分がこれまでに撮った中で、最高の写真か? いや。一番重要な写真の一つか? 間違いない」 19日朝には、ノーフォークにある王邸サンドリンガムに、警察の覆面車両が複数到着した。アンドリュー元王子は午前8時(日本時間午後5時)ごろ、王邸の敷地内にある自宅で逮捕された。 この事態をBBCが確認し、警察が公表したのは、この2時間後だった。 この日に66歳の誕生日を迎えた元王子は、事情聴取のためノーフォークの警察施設へ連行された。 逮捕したのはテムズ・ヴァレー警察だった。そのため、元王子が留置される可能性のある警察施設は、イングランド南東部に20カ所以上存在した。 ノーブル記者は消息筋からの情報をもとに、元王子宅から車で1時間以上の場所にあるエイルシャムの警察捜査センター(PIC)へ向かった。エイルシャムは16世紀初頭から青空市場が開かれることで有名な、歴史のある町だ。 「自分の活動拠点はイングランド北部なので、(イングランド東部の)ノーフォークはこれ以上ないというくらい遠い」とノーブル記者は言う。「渋滞がなくても、車で4時間半から5時間はかかる」。 警察施設に着いてみると、ほかにも報道陣が何人か外で待機していたが、特に動きはなかったという。 寒い中で6時間待ち、夜が訪れた。自分がもらった情報は間違いだったのかと思っていた。 ノーブル記者は機材を片づけ、泊まる予定のホテルへ向かって移動し始めた。 その数分後、警察施設の前に残っていたロイター通信の同僚マリッサ・デイヴィソン記者から連絡があった。アンドリュー元王子の迎えの車が複数、到着したというのだ。 ノーブル記者は急いで引き返した。するとちょうど、2台の車が高速で、施設を出ていくところだった。 先頭の車には警官2人が乗っていた。そこでノーブル記者は、後続の車にカメラを向け、フラッシュをたいてシャッターを切った。 長い一日の後で疲れていたが、集中が必要だったと記者は話す。 「(元王子が)どこに座っているか、見当をつけて当てる必要があった。前か、後ろか」 「一か八かだ。フラッシュも必要だ。それまでに、具合を確かめるため何度か試し撮りはしてあった」 ノーブル記者がこのとき撮った写真は計6枚。2枚は警官を捉え、2枚は真っ白で、1枚はピントが合っていなかった。 残る1枚が、今まさに世界中のあちこちで使われているあの写真だ。ぼうぜんとした表情で車の座席にもたれかかる、アンドリュー元王子の姿を捉えたものだ。夜間のフラッシュ撮影のため、光を反射した瞳が、いわゆる赤目現象になっている。 実に前例のない事態で、しかもアンドリュー元王子の表情が鮮明に写っていたこともあり、写真は世界中で新聞の一面を飾った。 「計画を立て、経験を元に自分が何をどうするべきかだいたいは分かっていても、それでも条件がすべてそろわないとどうしようもない」と、ノーブル記者は振り返った。 「動いている車を撮る時、判断よりも運が決め手になる」 ノーブル記者は、自分の写真が大ニュースを象徴するイメージとなっていく様子は、「現実離れ」した経験だったと話した。 「写真を撮る人間がどこにでもいるこの時代、あのような決定的瞬間を押さえたのが、一つの媒体だけだったというのは、珍しいことだ」 ノーブル記者は20日朝、サンドリンガム邸の外に待機する報道陣に加わった。捜査継続の状態で釈放された元王子は、敷地内の自宅に戻っていた。 アメリカで性犯罪で有罪とされた富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)について米司法省が1月末に追加公開した資料から、アンドリュー元王子が2010年と2011年に、貿易特使としての公式業務で得た機密情報をエプスティーン元被告に意図的に共有していた可能性が明らかになっていた。 BBCは、元王子が逮捕された容疑の具体的な内容を把握していない。しかし、元王子が貿易特使として行ったシンガポールや香港、ヴェトナムへの訪問に関する報告や、投資機会に関する機密情報を、エプスティーン元被告へ伝えていた様子が、米司法省の資料に書かれている。さらに、アフガニスタンでの投資機会に関する機密の内容を、元被告にメールで送信していたことも明らかになっている。財務省のブリーフィング内容を、個人的なビジネス関係者に渡したともされている。 イギリス政府の公式規定では、貿易特使は訪問先に関する機密性の高い商業・政治情報について守秘義務を負うと定められている。 元王子は、エプスティーン元被告との関係について一貫して不正行為を否定している。 (英語記事 A tip-off and 'more luck than judgement': The story behind Andrew car snap)