戒厳令を一時宣布し、軍の部隊を国会に突入させた韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案が、国会で14日可決された。1987年の民主化後、初めての戒厳令を、各紙は「民主政治を否定する強硬手段」(日経)などと、批判的に報じた。各紙はまた、権力の不在に伴う混乱の長期化が、北東アジアの安全保障環境や日韓関係、日米韓3カ国の安保協力に悪影響を及ぼす恐れを指摘した。 弾劾訴追案の可決により、尹氏の大統領権限は即時停止された。憲法裁判所が180日以内に、弾劾を妥当と判断すれば、尹氏は罷免され、60日以内に大統領選が行われる。 内乱事件の容疑者としての尹氏への捜査も進むが、尹氏は可決後「決して諦めない」との談話を発表し、憲法裁の審判で徹底抗戦する構えだ。 産経は、国家指導者不在の隙をつき、北朝鮮が干渉する危険に警鐘を鳴らした。前国防相が内乱の疑いで逮捕され「韓国軍の規律の緩みも指摘される」としたうえで、「北朝鮮がこれに乗じて、SNSや韓国内に扶植したスパイを利用して世論工作を仕掛けたり、軍事挑発に走ったりする恐れがある」と訴えた。 日本政府には「韓国の政情不安が当面続くと覚悟し、用心して外交防衛政策を進める必要がある」と注文した。 読売も外交への懸念に言及した。野党が、尹氏による対日関係改善を「屈辱外交」と批判してきたことに注目し、野党の影響力が増せば、「日韓関係が再び後退するのは必至だ」と主張した。 さらに「北朝鮮の動向にも警戒が欠かせない」とし、日韓の実務者間で意思疎通を続ける重要性を強調した。 日経も、尹氏が日韓関係改善に加え、日米韓3カ国協力や北大西洋条約機構(NATO)との連携を進めてきた外交成果を挙げた上で、政治停滞が与える「外交・安全保障政策への打撃は大きく、日本の安全にもかかわる」と警戒を促した。 毎日は、中谷元防衛相や石破茂首相の訪韓がともに見送られ、来日したオースティン米国防長官も当初予定した韓国訪問を取りやめるなど、「内政の混乱は外交にも影響を及ぼしている」と指摘した。東アジアの安全保障環境は厳しさを増しているとの観点から「日米韓の連携が揺らぐようなことがあってはならない」と訴えた。 野党の姿勢も問題視したのは朝日と日経だ。朝日は「韓国政治は与野党が互いを攻撃・否定しあう深刻な分断状態が続き、既存政治に対する国民の大きな不信の原因にもなってきた」と記し、「信頼回復への責任は、当然ながら野党にもある」と強調した。