椎名林檎の音楽はなぜ改めて脚光を浴びるのか?名曲再起用の流れから考える

椎名林檎が2009年に発表した楽曲「ありあまる富」が、6月19日公開の映画『マジカル・シークレット・ツアー』の主題歌に起用されることが決定した。その他にも、椎名が過去にリリースした楽曲が今改めてさまざまな作品に起用され、話題を呼ぶケースが増えている。 椎名の名曲は、なぜ時を超えて多くの人々に支持されるのか。本記事では椎名の名曲再起用の流れを辿りながら、その楽曲が持つ力について考えてみたい。 【「ありあまる富」が持つ多様なメッセージ性】 「ありあまる富」は、元々2009年に放送された松本潤主演ドラマ『スマイル』(TBS系)の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。フィリピン人の父親と日本人の母親の間に生まれた青年を主人公に、重厚な人間愛を描いた『スマイル』だが、椎名がこのドラマの主題歌を担当したのは、制作スタッフからの熱い要望があったからだという。ソロ名義で初の連ドラ・タイアップ曲だった「ありあまる富」は、ドラマの放送終了後も多くの人々に愛される名曲となった。 楽曲が持つ魅力は色褪せず、リリースから時を経てまた異なる広がり方を見せる。2024年には、「ありあまる富」が人気ゲーム『龍が如く8』内で流れる楽曲として起用。生きる意味を問いかけるような深い歌詞と同ゲームの強い結びつきを感じた制作サイドがオファーしたことから実現に至ったそうだ。裏社会で生きる人々の重厚なドラマを描く『龍が如く』への起用は、当初『スマイル』の主題歌として書き下ろされた経緯からすると意外に思えるが、ゲームをプレイしたユーザーからは“ストーリーに合っている”と好評で、椎名の楽曲が新たな層に広がるきっかけとなったと言える。 今回、新たに「ありあまる富」の起用が決まった映画『マジカル・シークレット・ツアー』は、2017年に中部国際空港で主婦たちが逮捕された実際の金密輸事件に着想を得て生まれたオリジナルストーリー。経済的に追い込まれた3人の女性が、金の密輸という罪に手を染め、人生をやり直そうとする物語だ。「ありあまる富」の持つメッセージ性が、富の象徴とも言える金の密輸を主軸に添えたこの映画でも活きてくる。 「ありあまる富」は正面から問いかけてくる。格差が広がり続ける社会の中で、本当の“富”とは一体何なのか。それは決して金銭や物理的な豊かさではなく、答えは一人一人違っているだろう。だからこそ、さまざまな作品が描きたいメッセージと深く共鳴し、時を超えてなお響き合うのかもしれない。 【「メリット」CMソングへの起用で話題に】 椎名が2000年に発表した楽曲「ギブス」が、花王「メリット」の新CMに起用されたことも最近の注目トピックだ。椎名と「メリット」のコラボレーションは、2025年の「幸福論」に続く2年目。何気ない日常に詰まった“家族愛”をアニメーションで描くシリーズとなっており、子どもの声でカバーされた「ギブス」が涙を誘うとSNSでも話題になった。 「ギブス」と言えば、椎名がエレキギターをかき鳴らしながら熱唱するMVを思い浮かべる人も多いはずだ。愛しい相手との今を抱きしめ、「此処にいて」「傍に来て」と願う痛切なラブソング。しかし、移りゆく季節の中で手をつないで歩んでいく父と娘の姿を描く「メリット」のCMを見ると、そのイメージが一気に変わる。曲の持つ力強いメッセージが“親子愛”とリンクし、まったく別方向から胸に迫ってくる。椎名の楽曲には、どんな時代にも、どんな人にも寄り添うような普遍性があるからこそ、こういった新しい解釈も生まれるのだろう。 今回の起用を経て、「ギブス」のMVのコメント欄には、「メリット」のCMを見てオリジナルを聴きに来たというユーザーも見受けられた。時代を彩った名曲の魅力が改めて再発見された好例だと言えそうだ。 【時代を超えて愛される音楽性】 椎名が1999年にリリースしたアルバム『無罪モラトリアム』の収録曲「丸の内サディスティック」は、2022年にBillboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数1億回を突破した。1990年代にリリースされた楽曲の1億回超えは「丸の内サディスティック」が初で、椎名の音楽がストリーミングが主流になった現在も強い求心力を持っていることがうかがえる。 そのほか、アーティストに与えた影響という点で見ると、世界的に高い評価を受けるシンガーソングライターの藤井風は、これまでにさまざまな椎名の楽曲をピアノカバーしているほか、2022年にはAdoが「罪と罰」のカバー動画で椎名へのリスペクトを感じさせる歌唱を披露し、話題を呼んだことも。令和の音楽シーンで活躍する多くのアーティストの中にも、椎名の楽曲は脈々と息づいている。 1998年のデビュー以来、独自の音楽性と世界観で第一線を走り続けてきた椎名。令和の現在も、その楽曲の魅力は多様な形で発見され続けていると言えそうだ。

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