歌舞伎町・トー横「潜入ルポ」 半グレでも不良でもない、メディアが膨らませた「幻想」の正体

歌舞伎町のTOHOシネマズ横に集う「トー横キッズ」。彼らは半グレか、新たなアウトロー集団か——もしあなたがそう思っているなら、メディアが作り上げた幻想に囚われている。歌舞伎町を長年取材し続けてきたジャーナリスト・久田将義氏が、彼らの輪の中に座って観察し、実際に見えてきたのは、まったく別の光景だった。指定暴力団幹部が証言する「三軍、四軍の連中」という言葉の意味とは何か。「トー横幻想」はどのように生み出されているのか。【特別公開 第2弾】(本書は2026年5月の朝日新書『教養としての新宿・歌舞伎町』から一部抜粋) * * * ■ヤクザが「三軍、四軍」と笑う、トー横の姿 立ちんぼと並ぶ歌舞伎町の名物の一つ、トー横とは何か。 「彼らは、不良の真似事をやってみたかった連中です。いわゆるそういった界隈でも三軍、四軍の連中ですね」 TOHO前のトー横たちの傍らを通った際、歌舞伎町に事務所を置く指定暴力団二次団体幹部B氏がこう言っていたことを思い出した。 その意味するところは、トー横と呼ばれる人間たちの様子を観察していれば理解できる。2025年8月の猛暑日。酷暑と言われる熱帯夜にもかかわらずTOHOの横で、10人ぐらいのグループが二つ、溜まっていた。10代後半から20代が中心。酒を飲んで喋っている以外は何をしているでもなく、キャンプで用いるアウトドアチェアを広げて、音楽を大音量で流している人間もいる。ここは一応、公道である。傍若無人と言えば、そうだ。 誰か注意しても良いのだが、やっかいなものには関わりたくないと思うのが、人情である。「Security」と背中に書かれた制服を着たガードマンが周囲にいるので「注意しないんですか」と話しかけてみたら、完全にスルー。 その横を海外からの家族連れやGUと書かれたショッピングバッグを持った「普通の格好」をしている通行人が何もなかったように歩いていく。そして、トー横と並列してコンカフェ(コンセプトカフェ)、ガールズバー、メンズ地下アイドルたちが列を作って客を誘っている。 同時に柱につけられたスピーカーからは「客引きは犯罪です」と警視庁と新宿区による注意喚起の音声が響きわたる。何という矛盾。「これぞ歌舞伎町」という光景だ。 トー横に目を戻す。もう一つのグループは半裸でコンクリートに寝転がっている男がいる。彼らが飲み残したであろう、缶を拾って中身を探っている中年男性がいつの間にかそのグループに参加していた。また、白髪の女性も仲間かのようにグループに加わって話している。 少し場所を変えて50mほど離れた歌舞伎町ハイジアに行ってみた。ここは30代くらいの中年を中心に酒盛りをしていた。TOHOの横ではないものの、やっていることはトー横と同じである。つまり、この日は三つのトー横が歌舞伎町でくつろいでいたことになる。 再び、TOHOに場所を移して見ていると、酒盛りは続いていた。三つのグループを見ていて一つの共通項が見てとれた。 服装である。 歌舞伎町の人的ピラミッドを構成する上で中心に君臨するホストやキャバ嬢のような華美とは正反対の装いだ。激安店で購入したような、そして、何日も着ているかのようなくたびれたジャージ、女子は地雷系っぽい服装で皆、決して清潔そうには見えない。カルバン・クラインのTシャツを着ている若者もいた(極めて私的感想だがこのブランドはこの手の人間に人気であると常々、感じている)。 そこで僕は輪の外側に入り座ってみた。ただ服装の点で、どうも浮く。そして当たり前だが雰囲気もトー横とは違う。歌舞伎町の人間としてこの街に溶け込むのは得意なはずという自負があったのだが、このトー横に関しては難しそうだ。 そこで感じたのは、少なくとも、彼らは不良少年少女でもなければ、アウトサイダーでもないということ。そういった雰囲気は会話を聞いた限りではなかった。数時間観察して納得したのが、冒頭のヤクザの言葉、「界隈でも三軍、四軍の連中ですね」である。 不良少年(※)で言うところの「一軍」である暴走族、ギャング、半グレは、少なくともインバウンドや普通の人々が多数歩いている歌舞伎町の公道で、このようなふるまいはしない。そして、彼ら「一軍の不良少年」は美意識が高い。薄汚れた格好をする集団の中には入らないだろう。 ※不良少年 「不良」は関東ではヤクザを指すことがあるので、それ以外のアウトローを「不良少年」と呼称し「ヤクザ」と区別する。 そもそも皆さんはトー横と聞いてどんなイメージを持つだろうか。半グレか準暴力団か。それでもなく新たなアウトロー集団なのか。 どれもハズレである。「繁華街に溜まっている老若男女の集団」なだけである。このような人間の集まりは、時代を問わず見られてきた。 ■「歌舞伎町卍会」と半グレのつながりは? 結論を先に言うと「トー横」と命名された「組織」はないし、大阪の「グリ下」(グリコの看板の下)、横浜市の「ビブ横」(ビブレの横)、名古屋市の「ドン横」(ドン・キホーテの横)などの類と一緒である。 ここまでトー横幻想が大きくなったのはメディアの報道の仕方が大きい。メディアが三軍の集団を一軍かのように膨らませた結果が今、と言っても良い。新宿東宝ビルの前は以前までは、噴水広場だった訳だが、そもそもその頃から行き場を失った人々がホームレス同然の格好をして溜まっていた。トー横の原点と言っても良いだろう。 溜まっている場所の名称をそのままグループ名にしている時代は、確かにあった。それが今に続いている。だが以前(昭和・平成)の彼らが圧倒的な暴力性・犯罪性を帯びていたのに比べ、現在のトー横は様相が異なる。 しかし以下のような報道がトー横に暴力幻想を持たせている。 2022年6月22日、警視庁はトー横の男性(32)を青少年健全育成条例違反で逮捕した。18歳未満の少女にみだらな行為をしたのだという。興味深いのが、彼が「トー横」とは名乗らず組織名を出していた点だ。当時の報道を見てみよう。 【男は「ハウル」と自称し、東京・歌舞伎町の「トー横」と呼ばれる一角で炊きだしや清掃活動をする団体「歌舞伎町卍(まんじ)会」の総会長を名乗っていた。】(2022年6月23日 朝日新聞デジタルより) 歌舞伎町卍会なるものが、歌舞伎町に存在し得るのか。この組織名だけ見ると、昭和・平成時代の暴力的な暴走族・チーマー・ギャングなど不良少年の集団が歌舞伎町にも生まれたのかと勘違いしてしまうだろう。 ただ、このようなアウトロー臭が匂うようなネーミングの組織が新しく誕生したとして、黙ってはいない集団がいる。歌舞伎町のアウトローピラミッドの頂点、ヤクザである。 トー横に関わり合いのある指定暴力団三次団体組長C氏に接触をすることができた。トー横は不良少年や半グレとは違うのか、聞いてみた。 「まず、歌舞伎町に半グレは存在しません。もちろん半グレが個人的にこの街で酒を飲んでいることは当然ありますけど」(C氏) 歌舞伎町に半グレは存在しない──この街における暗黙の了解のようなものだ。そしてこれは歌舞伎町に限ったことではなく、全国の繁華街にも言える。関西以西に拠点を置く指定暴力団二次団体組長のコメントにそういったことが伺い知れる。「もし自分らの街で半グレが出来たり、暴走族も含めてだけど騒いでいたら、当然黙らせます」。 とは言うものの、矛盾したことを言うようだが、半グレは主要都市郊外やその他繁華街に存在している。なぜか。現在の半グレは、ほぼ全てヤクザと結びついているからである。警察の半グレリストを見ると、そこには10以上の半グレのチーム名と主要人物が記してあった。そして、必ず「リーダーは〇〇組組員の暴走族時代の後輩である」というようなつながりが、明記されていた。つまり、ここで言いたいことは完全に独立した半グレはこの日本では、あり得ないということだ。 半グレがグループで街に入ってこようものなら、すぐヤクザの耳に入る。だから、「たまにいますよね、トー横とかに。『ここは俺らのシマだから』みたいな(笑)。バカバカしいすね」(前出・C氏)といった言葉も聞こえてくるのだ。 指定暴力団幹部がさらに語るトー横の内実とは。チーマーや噴水族など昭和・平成の一軍不良たちと、トー横は決定的に何が違うのか。なぜ若者たちは歌舞伎町の「谷底」に吸い寄せられるのか。そして、トー横発祥の地はどこか。そのすべての答えは、朝日新書『教養としての新宿・歌舞伎町』で。

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