10月8日にスタートした『オクラ~迷宮入り事件捜査~』(フジテレビ系)第1話は、新たに誕生したバディの今後を占う上で、見逃せないエピソードとなった。 ※本稿は第1話の結末に触れています 罪なきものが裁きを受ける。ちょうどその頃、真犯人はのうのうと逃げおおせ、自由の空気を胸いっぱい吸い込んでいた。ドラマをなぞるように現実の世界線が更新される2024年、本作は登場すべくして登場した作品といえるかもしれない。 刑事ドラマの王道といえるバディもので、主人公とその相棒を担うのは、反町隆史と杉野遥亮だ。舞台は警視庁捜査一課特命捜査情報管理室、通称“オクラ”。お蔵入りした未解決事件のデータを管理する部署で、端的にいえば資料室である。文書管理は公務員の重要な業務だが、本作においては、出世コースを外れた問題児が集まる窓際部署である。コンクリートむき出しの地下スペースに既視感を覚え、“刑事の墓場”は“刑事ドラマの墓場”かもしれないと不安が募った。 初回から悲観的な見立てを披露するのはさすがに気が引けるので、オクラの良いところを挙げると、彼らには捜査権がある。「なんで?」と思うかもしれないが、たぶん警視総監の気まぐれだろう。しかし、このおかげで事件を捜査し、解決できるのだ。刑事ドラマの条件は満たした。さあ、捜査に行くぞ! 未解決事件の捜査だ! ただし、そこにはちゃんとリード部分があって、きっかけは犯人からのメール。12年前に起きた女子小学生殺人事件の容疑者で、証拠不十分で逮捕されなかった矢継周作(黒田大輔)からのものだった。「逮捕できるならしてみろ」とでも言うような挑発的な文面を目にした飛鷹千寿(反町隆史)は、殉職した元バディの娘で刑事の結城倫子(白石麻衣)とオクラの新入り不破利己(杉野遥亮)を連れて、12年前の事件現場へ向かった。 経験豊富なベテラン刑事と正義感に燃える新人。一人は頭脳派のエリートで、もう一人は現場第一のたたき上げ。と聞くと、あんな捜査線やこんな相棒、ギプスと紙袋、その他のなつかしい顔ぶれが脳裏に浮かぶ。けれども、『オクラ』の二人はそのどれとも異なる。なにせ第1話のタイトルが「混ぜると危険な新バディ誕生!」なのだ。その答えは刑事ドラマの外側にあった。 4代目『相棒』(テレビ朝日系)としてキレのある存在感を放った反町隆史なので、クールに決めるかと思いきや、本作の千寿は思いきりハメを外してくる。自転車で爆走し、職務中に喫茶店でサボる。キャバクラ通いにパラパラ。……パラパラ!? こ、これは、まさかの「グレイトティ(以下略)」ではないか! 渋みや経験値をため込んだはずの千寿は、刑事に転生した鬼塚英吉だった。容疑者宅のドアを蹴り破る姿は、完全に2年4組の担任。「その手があったか」である。 これに対して、年下バディの利己はぎこちない。人の痛みがわからないカタブツで、元ヤン倫子の神経を逆なでしてばかり。千寿に若さと生気を吸われたかのように元気がない。あまりの見せ場のなさに、先輩に弱みを握られているのではないかと余計な心配をしそうになる。このまま行くと着任早々、利己は不登校になってしまう……。あるいは、これはシーズンごとに相棒が変わる伏線なのか? タカとユージのようにはいかないと観念して視聴を続けるうち、二人の関係に少しずつ変化が生じてきた。なぜか千寿につきまとう利己は台詞量が増え、随所で鋭い洞察を放つ。千寿に足りないインテリジェンスを補うことで、視聴者に代わって無鉄砲な相棒の目撃者となる。当初は相性最悪な二人が、数々の修羅場と難事件をくぐり抜ける中で名コンビになる様子を、私たちは幾度も目にしてきた。しかし、最大の驚きはラスト15分にあった。 初回拡大版の尺の使い方として、『オクラ』第1話の延長15分は本作の方向性を示す役割を担うものだった。再捜査となった事件は人為的によみがえらせたもので、そこに千寿が一枚嚙んでいること。「これはねつ造では?」という疑念が渦巻く中で、犯人につめよる千寿を「残念な刑事」と突き放す利己のギャップに、場違いな笑みがこぼれたのはここだけの話である。 昭和の刑事みたいに熱血。アウトローじゃなくて、本当に法律的にアウトな千寿。真面目を通り越して嫌な奴なのに、その冷静さが千寿との対比でほっとする利己。年齢やキャリアの差ではなく、人としての温度差が違い過ぎる二人は、追及する側とされる側で、秘密を共有する運命共同体である。刑事ドラマという枠そのものをぶっ壊す危険なバディの向かう先は予測できない。なお、第1話で、文字の神様は最後まで降りてこなかったことを報告します。