韓国現代史上最悪の「ヴィラン(ならず者)」であり、「共和国の逆賊」となった尹錫悦(ユン・ソクヨル)は、逆説的な意味で多くの業績を残した。口を開けば強調していた自由民主主義の実体が「朴正煕(パク・チョンヒ)式のファシズム」である事実を自ら暴露し、保守が経済と安保に有能だという長年の嘘を立証した。私たちがこれまで知っていた極右(チョ・ガプジェ、チョン・ギュジェ)の右側にさらに過激な極右(スーパーウルトラライト)があり、彼らが大統領室と政府・与党の主流という事実を教えてくれた。エリート官僚たちは自分より国のことを優先するだろうという期待を崩し、検察は公正で正義の味方だという誤信に終止符を打った。韓国社会を支配していた幻想を、尹錫悦本人の表現を借りて言えば「一挙に剔抉(てっけつ)した」のだ。 ただし、この古い誤信または幻想の没落が、初めてではないというのが問題だ。検察が公正でも正義の味方でもないという事実は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権を経てすでに確認されており、保守が経済に無能だということも1997年の金泳三(キム・ヨンサム)政権の国家不渡り事態で国民に知れ渡った。保守は安全保障に有能であるわけではなく、全保障を売り物にすること」に長けているだけという事実も、「銃風事件」(1997年の大統領選直前、与党候補の支持率を上げるため与党関係者が北朝鮮側に休戦ライン近くで武力行動を起こすよう要請した事件)をはじめとする各種の「北風(北朝鮮の脅威を過度に強調し、国内政治に利用しようとする動き)」事件で暴露された(しかも、今回は南侵を誘導して戦争を起こそうとして失敗した!)。彼らが擁立した大統領が無能かつ怠惰なゆえ、陰の実力者に依存した末に罷免されたのが、わずか8年前のことだ。にもかかわらず、韓国国民は「1年後には忘れた」(「国民の力」ユン・サンヒョン議員)。与党「国民の力」の議員たちが恥も知らず「内乱首謀者」を守ろうと乗り出す秘密がここにある。一時的に守勢に追い込まれても、少し我慢して持ち堪えれば、再び権力を握ることができるという信念には、実質的な根拠がある。 彼らの自信は主流意識から始まる。大韓民国を建国した右派の末裔として、国の骨幹を掌握しているという考えだ。財界と法曹界、官僚組織とマスコミ、検察と司法部、私学をはじめとする教育界に至るまで、権力とお金があるところほど勢力が強い。尹錫悦が憲法と法律を踏みにじり、戒厳令を宣布できたのも、自分をはじめとする親衛勢力がこの国の主流だと考えていたからだ。主流だから成功すると思ったし、失敗した後も詭弁を弄することができるのだ。決して酒に酔ってやユーチューブに心酔しているからではない。本人と妻の犯罪を永遠に覆い隠す解決策をユーチューブで見つけただけだ。極右ユーチューブチャンネルは原因ではなく結果だ。 今、尹錫悦はトランプに希望を見いだしているかもしれない。トランプは4年前の2021年1月、支持者を扇動して暴力的に議会を占拠するように仕向けたにもかかわらず、再び大統領に当選した。主要裁判と捜査は中断された。トランプ支持者が多数派だったから可能なことだった。 しかし、「韓国版トランプ」の尹錫悦の希望回路は入口から間違っている。米国の極右トランプと韓国の極右尹錫悦は根本的な土台が違う。トランプがパナマ運河とグリーンランドに野心を示し、ならず者を彷彿とさせる言動を取ることから分かるように、トランプの理念は純度の高い自国利己主義だ。一方、尹錫悦の極右は、少数の支配層の利益を最大化するために自国民の犠牲を強要する、事大主義と自虐的世界観がごちゃ混ぜになった理念だ。いずれにせよ、多数の民衆の支持を受けるトランプと、少数エリートおよび狂信的反共主義者だけが支持する尹錫悦の違いは、太陽と地球の間の距離ほど大きい。トランプが名実ともに多数派の主流だとすれば、尹錫悦は少数派の主流だ。 彼らは依然として韓国の支配勢力だが、右派エリートと大衆の乖離はますます大きくなっている。個人メディアで武装した大衆は、かつての愚昧な群衆ではない。そのうえ、尹錫悦自らが残した政治的遺産で、乖離現象が加速化している。12・3戒厳令事態を通じた20代と30代の政治的覚醒は驚くべき水準だ。弾劾訴追で中断される前、韓国ギャラップの最後の大統領支持率調査である昨年12月第2週の世論調査で、20代における尹大統領支持率は3%、30代は6%だった。民主党の主要支持基盤である40代と50代の7%よりも低い。 国会で尹錫悦大統領弾劾訴追が行われた日、光化門(クァンファムン)通りを歩いている途中、20代の女性2人の会話を偶然耳にした。「これからはあの人たちと闘わなきゃ」。「あの人たち」とは太極旗(星条旗)部隊だった。彼女らの予言どおり、ペンライトと太極旗は今、漢南洞(ハンナムドン)で闘っている。韓国社会の主流は変わりつつあり、「スーパーウルトラライト」の抵抗は最後のあがきに過ぎないと信じている。にもかかわらず、共和国の逆賊が残した汚い遺産を取り除くには、思ったより長い時間がかかるだろう。気が急くと負けるものだ。 イ・ジェソン論説委員(お問い合わせ [email protected] )