これは、新・新川帆立ではないか。 最新長篇『目には目を』(KADOKAWA)のページをめくりながら思わず目を瞠(みは)った。 序章と5つの章から成る長篇で、冒頭の序章「墓地」で扱われる事件の概略が示される。少年犯罪の物語なのである。 墓地とは少年Aのものだ。「彼は人を殺し、人に殺された」と紹介される。15歳と10カ月の時、彼は別の少年Xに暴行を加え、死に至らしめた。傷害致死の疑いで逮捕され、家庭裁判所にて第二種少年院送致の審判が下る。1年3カ月をN少年院で送り、退院後は住み込みの土木作業員として働き始めた。勤務態度は悪く、欠勤が多かった。ある日、無断欠勤を咎めに雇用主が部屋までやってきて、めった刺しにされたAの遺体を発見したのである。 すぐに田村美雪という女性が自首してきた。彼女はAに殺されたXの母親だったのである。人を殺しておいて1年3カ月の少年院暮らしで許されるのはおかしい、死には死をもって償うべきである、と田村は考え、インターネット上で呼びかけを行ってAの情報を集めた。その中にAと同じ時期をN少年院で過ごした少年Bからのものがあり、それによって田村は殺害計画を完遂することができた。田村がハンムラビ法典を引き合いに出して動機の正当性を主張したことから、この事件は「目には目を事件」と呼ばれるようになる。 本書の語り手である〈私〉は、「他の多くの少年は罰を受けていないのに、なぜ少年Aだけが殺されたのか。少年Aは運が悪かったのか。あるいは殺されるだけの事情があったのか」と考える。その疑問を晴らすため、N少年院でAと生活を共にした元少年たちへの取材を行い、まとめたものが第1章から始まる本文である、ということになっている。ノンフィクション取材記という体裁なのである。序章の終わりに、各章がどのような内容かがまとめられているのがいかにもノンフィクションらしい。