イランのタブーに切り込んだサスペンススリラー「聖なるイチジクの種」が14日から公開される。監督は「悪は存在せず」でベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)を受賞したイラン出身のモハマド・ラスロフ。ラスロフ監督が昨年、命懸けで国外脱出した末に、カンヌ国際映画祭でプレミア公開された作品だ。 ラスロフ監督は自作映画でイラン政府を批判したとして、国家安全保障に反する罪により懲役8年、むち打ち、財産没収の実刑判決を受けたが、執行される前に国外へ脱出。命からがら28日間かけて、カンヌ国際映画祭の会場に足を踏み入れた。 プレミア上映の際は、ラスロフに対するリスペクトと称賛を込めたスタンディングオベーションが12分間も続き、審査員特別賞を受賞した。 本作は、2022年に実際にイランで起きた、ヒジャブ(髪を覆う布)のかぶり方が不適切だとして当局に逮捕された女性の不審死をきっかけに製作された。この事件に端を発した反政府デモが苛烈化する中、ある家族が崩壊していく様子を描いている。 反政府デモの逮捕者らに不当な刑罰を下す業務に従事することになった予審判事のイマンに、報復の危険があるため、護身用に国から1丁の銃が支給される。しかし、ある日、家の中に保管されていたはずの銃が消える。当初はイマンの不始末による紛失だと思われたが、次第に疑いの目は妻、姉、妹の3人に向けられていく。 イスラム法学者が政治を導く、政教一致の国イラン。そんなイランの社会情勢だけでなく、変化する価値観、とくに若いイラン女性たちの姿が本作では生々しく描かれ、目を見張る。 そういったイランの実情を伝えている本作は、イラン政府にとっては問題作なのだろう。以下はラスロフ監督が昨年5月に発表した声明の一部だ。 「今もイランには俳優や映画のエージェントがたくさん残っていて、諜報機関から圧力がかかっている。長い取り調べを受けたり、家族が呼び出されて脅されたりした人もいる。この映画に出演したことで、彼らは起訴され、出国を禁じられた。カメラマンの事務所は強制捜査に遭い、機材はすべて押収された」 本作に多くの犠牲が払われたことは、特筆すべきだろう。仏・独・イラン合作。14日から全国順次公開。2時間47分。(啓)