東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、大会組織委員会の元理事への贈賄罪で逮捕・起訴された出版大手「KADOKAWA」の角川歴彦前会長(81歳)が、否認することで身体拘束が長期化する「人質司法」により苦痛を受けたとして、国を相手取り2億2000万円の損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が、1月10日に東京地裁(中島崇裁判長)で開かれた。角川前会長は「『人質司法』は憲法違反で、国際人権法違反。まさに人間の尊厳を汚すものだ」と訴え、国は争う姿勢を示して請求棄却を求めた。 角川前会長は元理事にKADOKAWAを大会スポンサーに選定することなどを依頼し、計約6900万円の賄賂を渡したとして、2022年9月に東京地検特捜部に逮捕され、翌月に起訴された。角川前会長は捜査段階から一貫して容疑を否認している。 訴状などによると、角川前会長は拘置所で排泄を含む生活全体を24時間監視された。角川前会長は心臓の持病があり、勾留によって病状が悪化したため弁護団は病院での治療を希望したが、許可されなかった。「生命の危険がある」として保釈請求も行なったが、検察側は証拠隠滅の可能性などを理由に反対し、東京地裁も請求を却下した。容疑を自白した他の共犯者は早期に保釈される一方、無実を訴える角川前会長だけが保釈を却下され続けた。五度目の請求でようやく認められ、23年4月に保釈された。逮捕以降の身体拘束は計226日間に及んだ。 訴えでは、こうした身体拘束は刑事手続きで無罪を主張し事実を否認または黙秘した被疑者・被告人ほど容易に身体拘束が認められやすく、釈放されることが困難である「人質司法」だと批判。検察や裁判所によるこうした運用は、推定無罪の原則や不当な身体拘束を受けない権利を定める憲法、国際人権法に違反しているとし、「人質司法」によって刑事裁判で無罪を争うことについての萎縮効果が生じている、と指摘している。