米ニューヨークにあるコロンビア大学で昨年あった、パレスチナ・ガザでの戦争をめぐる抗議活動に参加したとして、シリア出身の同大の元大学院生が先週末に拘束され、国外追放の可能性に直面している。元大学院生の弁護団は12日、ドナルド・トランプ政権が元大学院生との接触を制限していると、マンハッタンの裁判所で訴えた。 拘束されているのは、シリアでパレスチナ難民の両親のもとに生まれたマフムード・カリル氏。米国永住権(グリーンカード)をもち、米国民と結婚している。 弁護士によると、同氏は逮捕されたとき、グリーンカードは失効すると捜査員から告げられたという。 カリル氏はニューヨークで逮捕されたあと、ニュージャージー州の拘束施設に入れられ、その後にルイジアナ州の施設に移された。政府の弁護団は、国外追放に関する裁判はこの2州のどちらかで開かれるべきだと主張している。 弁護団は12日、カリル氏の身柄をニューヨーク州に戻す決定を裁判所に求めた。ジェシー・ファーマン判事はこれに応じなかったが、検察に対し、裁判を別の州で行うべき理由を明らかにするよう指示した。 カリル氏は以前から、コロンビア大の学生らによる抗議活動では、広報と話し合いの仲介人の役割を務めただけだと主張している。 一方、同氏について、コロンビア大にイスラエルへの投資資金を引き揚げるよう要求し、ガザでの停戦を呼びかけた学生グループ「コロンビア大学アパルトヘイト・ダイヴェスト(CUAD)」を率いていたと非難する人もいる。同氏はこれを否定している。 国土安全保障省(DHS)はカリル氏の拘束について、反ユダヤ主義を禁止するトランプ氏の大統領令に沿うものだとしている。同省はカリル氏を、「(イスラム組織)ハマスと連携した活動」の主導者だと非難しているが、詳細は明らかにしていない。 BBCは同省に対し、この主張に関する情報を求めている。 トランプ氏は、カリル氏の拘束を「これから起こるであろう多くのこと」の始まりだとしている。また、ハマスに同情的な大学の抗議活動者らを取り締まると宣言している。 トランプ政権はカリル氏を国外追放にしようとしているが、ファーマン判事は今週、それを認めない決定を出した。 ■言論の自由訴え各地で抗議デモ 12日の法廷でカリル氏の弁護団は、同氏と正式に電話で話すことができておらず、どこにいるのかわからないこともあると述べた。ファーマン判事は検察に、通話を可能にするよう指示した。 判事はまた、この裁判が「重大な公共的関心」を呼んでいるとして、関連記録の公開を決定した。 カリル氏の拘束をめぐっては、全国各地で抗議デモが起きている。マンハッタンの裁判所の前では、デモ参加者らがカリル氏とパレスチナ人への支持を唱え、旗を振った。参加した女優スーザン・サランドン氏は、トランプ政権の関係者らがカリル氏を「消そうと」しているとBBCに話した。 カリル氏の弁護士ラムジ・カセム氏は裁判所の前で、今回の事件は「言論は自由であるべきだと考えるアメリカの誰もが憤慨する」べきものだと述べた。 米公民権の支持者や議員、一部のユダヤ人団体は、カリル氏の国外追放はアメリカの適正手続きの権利を侵害し、言論の自由に対する攻撃だとしている。 アメリカの移民国籍法は、「外交政策および国家安全保障上の利益に敵対する」米国民ではない人物の国外追放を、国務省に認めている。マルコ・ルビオ国務長官は12日、査証(ビザ)やグリーンカードをもっている人であろうと、政府は「事実上どんな理由でも」国外追放できると述べた。 それでも法律の専門家らは、カリル氏の裁判は前例がないものだとしている。コーネル大法科大学院のジェイコブ・ハンバーガー客員助教授は、「抗議者個人を抗議していることだけで標的にするのは(中略)極めて異例であり、第1次トランプ政権でも見たことがなかった」と述べた。 ■妊娠中の妻が声明 カリル氏の妻(氏名は非公表)は11日、弁護士を通して声明を出し、夫の拘束について詳しく説明した。 それによると、8日に夫妻が外での夕食から自宅アパートに戻ると、入国管理当局の職員らが現れた。職員らは令状も逮捕の理由も示さず、夫妻がかけていた弁護士との電話を打ち切った。その後、カリル氏に手錠をかけ、覆面パトカーに押し込んだという。 「目の前でこのようなことが繰り広げられるのを見て、トラウマになった。見る気のなかった映画の一場面のように感じた」と妻は声明で述べた。 現在、妊娠8カ月だという妻は、「初めての子どもを迎えるために子ども部屋を整えたり、ベビー服を洗濯したりする代わりに、私はアパートに座ったまま、マフムードがいつ拘束施設から電話をかけてくるかと思い悩んでいる」とした。 ガザでの戦争勃発を受け、各地の大学のキャンパスで大規模な学生抗議デモが起きた。コロンビア大はその一つに過ぎない。 トランプ政権に対しては、米国民ではない抗議者を狙い撃ちにすることで、潜在的な反対派を黙らせようとしているのではないかとの懸念の声が出ている。 一方、カリル氏やガザでの戦争に抗議する学生らに批判的な人々は、ここ数週間、同氏らの国外追放を求めていたとされる。 トランプ氏は10日、カリル氏の拘束についてソーシャルメディアに次のように投稿し、そうした人々の要求に応えたようだった。 「私たちは、コロンビア大学など全国各地の大学で、テロ支援、反ユダヤ、反アメリカの活動に関わった学生がいることを知っている。トランプ政権はそれを許さない。(中略)それらテロリストの同調者らを、私たちは見つけ、拘束し、国外に追放し、二度と戻れないようにする」 (英語記事 Lawyers argue over moving detained pro-Gaza Columbia activist)